よく、友人からあんたはどうして一人の男と続かないのかしらね、と言われた事がある。
どうして、なんて私が知りたい。
好きになって付き合って、キスをして、セックスをして。
恋人らしいことは一通りこなす。
私は相手にあまり干渉しない方だけど、蔑(ないがし)ろにする訳じゃない。

だけど落ち着いて、ゆっくり相手を観察すると、付き合っている内に、相手の内面が段々と見えてくるのだ。

例えばそれが嫌な部分でも、些細なことなら受け入れられる。
でも、それ以上のものだったら?
こんな人なんだ、と気付いたら?

気持ちが急に冷めていく。
相手に魅力を感じない。
どうしてこんな人と付き合っているのだろうと、恋人である自分にすら嫌気がさしてくる。
そして破局。
いつも同じパターン。

「あんた、無意識に相手に求め過ぎてるんじゃない?」
「そんなことないよ。いいと思ったら、嫌にならないし」
「だったら、付き合う前にもっとよく考えなよ。下手な噂が流れたら、それこそ鉢屋みたいに、軽い奴だって思われるよ」

そう言って、友人は私を窘めた。
私は友人が出した名前に聞き覚えがあり、あぁ、あの。と、彼の顔を思い出していた。

鉢屋といえば、女を取っ替え引っ替えすることで、この学校では有名な生徒だ。
そういえば雷蔵が仲いいって言ってたっけ。
私は実際には彼と会ったことはないけれど、時折雷蔵から彼の名を聞いたことがある。

それだけの噂を持つ人だから、鉢屋は私が付き合うタイプとは真逆の存在なんだな、と思っていた。
だけどたまたまゼミが一緒になって、たまたま同じ班になって、遅くまで打ち合わせをした後、たまたま帰る方向が同じで…
こっそり彼を見ていたら、彼に好意を寄せている子なら、きっと喜んで彼の部屋までついていくだろうなぁと思った。

鉢屋は、話してみればわかったが、随分と心穏やかな人であった。
表面上は周りに合わせて、くるくると表情を変え、班の人間に指示を出しながら、意外と博識だったりして。
でも、内面はきっと、自分のペースを守る人なんだろうと思った。
他の人よりも効率的に作業をこなす彼のスピードこそが、他人に干渉させたくない、彼なりのペース。
ゆっくりもできるけど、頭の回転が早いから、体はそれについていかせたいはずだ。

そして、周りは誰もそのことに気付かずに、何だ、鉢屋って頭良かったんだな、ただモテるだけじゃないんだ、と認識を変えて。
それだけだった。

「それでも、楽しそうだね」

私が言えば、鉢屋は怪訝そうな顔をして、何が?と聞き返す。

「鉢屋くんのペースって、人より早いから、足を引っ張ることはないし、重宝されるでしょう」
「会って間もないやつに、そんなこと言われてもなぁ…」
「普通、自分のペースを守る人って、大体が遅いって思ってた」

だから、鉢屋くんみたいなタイプは初めて。
私は素直にそう告げ、家まで送ってくれた彼にお礼を言った。
鉢屋は少しだけ困ったような顔をして、

「俺も、蛙吹みたいに、自分のことをこんな簡単に言い当てられたのは初めてだ」

人は見かけによらないな、と二人で笑い合った。

それから私は鉢屋と一緒に過ごす時間が増え、横から鉢屋のことを観察していた。
友人に言われていたから、だけではない。
私はもっと鉢屋のことが知りたくて仕方がなかった。

告白して、返事をもらった時も私たちは淡泊だった。
事務作業のように話は進んだ。
それでも、嫌われるような態度はとっていないようだし、鉢屋となら上手くいく気がした。
鉢屋は、私が今までに付き合ってきた人たちとは、全然タイプが違ったから。

嫌なところは見えなくて、飽きもしない。
三郎と私はやはり相性がいいのか、と思った。
穏やかで、それでいて刺激がない訳ではなく、一緒に過ごす時間はとても幸せだった。


夢から覚めて、辺りを見回す。
そこに雷蔵の姿はなく、裸の私だけが放置されていた。
動こうとすると、下腹部に痛みが走る。

「っ、」

そうだった。
私、中に出されたんだ…
もう恋人じゃない、雷蔵に。
でも、雷蔵は既にヨリを戻した気でいるのかもしれない。
そしたら私、雷蔵の彼女なの?
私はまだ三郎が好きだけど、三郎は出て行ってしまったし…

「どうしよう…」

わからない。
わからないことだらけで、私は深いため息を吐いた。


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