兵助が梅雨さんと仲睦まじく歩いているところを見てしまった。 二人は休日の過ごし方について話していて、梅雨さんがまだ学園の外に出たことがないと言うと、兵助は一緒に出掛けませんか、と言った。 「実は、梅雨さんを誘おうと思っていたんです」 「本当に?せっかくのお休みなのに、いいのかしら」 「構いませんよ。嫌だったら、最初から声をかけませんし」 そう言って笑う兵助の横顔を盗み見て、私はずきりと胸が痛んだ。 何故って、今度の休みには一緒に町に行こうって約束してたからだ。 兵助は、約束を忘れているのか。それとも、私ではない‘梅雨’と出掛ける予定が兵助の中で出来上がっていたのか。私のことを、忘れてしまったのか… 思えば、私と一緒にいた三郎たちも、いつの間にか梅雨さんの傍にいることが多くなった。 私を見かけてもまるで空気を見ているように、存在を無視されて、忍たまとくのたまの実習では当然のように組んでいた彼等とは、完全に離れてしまった。 今日も、兵助たちは私ではないくのたまと組んでいて、私はほとんど顔も知らない忍たまと組んだ。その忍たまがどういった戦術を組むのが得意か知らなかったので、結果は散々だったが。 休日、私は自分の中にあった予定を変更して、会計室に向かった。 迎えに来ない相手を待ったって仕方がない。でも、二人の姿を見るのは嫌だったので、帳簿を付ける作業に没頭した。 昼食を取らずに昼を大分過ぎた頃になって、三木ヱ門がやって来た。 誰もいないと思っていた会計室に私がいて、驚いたようだ。 「先輩、何で休みの日まで帳簿を付けているんですか?」 「単なる暇潰しよ」 「あれ、でも先輩は今日、久々知先輩と出掛けるって…」 「………」 「…すみません、」 無言の私から何かを察したらしい三木ヱ門が、忘れ物として取りに来た筆を机に置き、会計室の襖を閉めた。 「三木?」 「私も手伝います」 「でも…」 「私も、ちょうど暇を持て余していたので」 すとん、と私の前に座り込む。 潮江先輩勅命の十キロそろばんを出し、私の前から帳簿を一つとった。 ポカンとする私に、三木ヱ門は何て顔をしているんですか、と苦笑した。 「今の内に終わらせておけば、委員会での徹夜も減ります。左吉や団蔵に徹夜は良くないでしょうから」 「そうね…」 「…始めますよ」 そう言って、三木ヱ門はそろばんをはじき出した。私も慌ててそれにならう。 ぱちんぱちんという音が会計室に響くのを聞きながら、私は今頃二人は何をしているんだろうと思った。 茶屋に入っているのだろうか、小物屋に寄って、兵助が見立ててやっているのだろうか… どっちにしろ、二人は笑っていることだろう。 だって、梅雨さんの笑顔は兵助を幸せにする。 私にはきっと、できないことだろうから。 そろばんを弾きながら、初めて私には何もないということに気付いた。 青い鳥は眩しすぎた |