調べ物があって、公立の図書館を利用している時だった。 欲しい資料を揃えてさて帰るか、なんて席を立ったところて、肩を叩かれた。はい?とは思っても声は出さず――図書館では静かに!――振り向けば、そこには天使の笑顔を貼付けた悪魔がいた。 不破雷蔵。 初対面から私のブラックリストに赤字で追加された彼である。間違っても三郎くんではない。 不破くんはニッコリとした笑顔を浮かべながら、コッソリと耳打ちした。 「(お久しぶりです。ここでは何ですので、ちょっと移動しませんか?)」 いやいや、私もう帰るから。不破くんに付き合ってる暇なんてないから。 無理、と断ろうとした時は既に私の腕は掴まれて、そのまま奥へと連れていかれた。 大きな本棚に囲まれた絶好の死角ポイント(何でこんなとこがあるの!?)に着くと、不破くんは私を壁に押し付けて、頭の両側を腕で挟み、私が逃げられないようにした。これ、人に見られたら一発で誤解される格好だ…。 「(珍しいですね、梅雨さんが図書館に来るなんて)」 「(ちょっと調べ物があったの…そういう不破くんは?まるでしょっちゅうここに来てるみたいな口ぶりだけど…)」 「(僕は本を借りに、よく来るんですよ。それより…)」 ぐっと不破くんの顔が近づく。いやいやまずいでしょう、これ以上は…!と思って目を閉じたら、目の前で不破くんが笑った気配がし、そのまま耳元に顔を寄せられた。 「何で僕だけ、いつまで経っても名前で呼んでくれないんですか?」 ふっ、と息をかけられる。 背筋がぞくりと震えて、私は反射で逃げようとした。しかし不破くんの手がそれを許さない。 「な、名前って…」 「三郎や兵助たちのことは名前で呼んでるのに、僕だけ呼んでもらえないって、不公平ですよ」 あれ何かこのパターン前もあったような…!? 「ねぇ、梅雨さん。雷蔵って、呼んでみて?」 「そ、それは…」 「何で?僕のこと嫌い?」 「そういう、訳じゃ…」 ただ、不破くんはどうしようもない年下としてブラックリストに載ってるだけで、嫌いではない…はず。うん。だって私、子供自体は好きだし… だけどこんな至近距離で、こんな態勢で突然名前を呼べって言われても、無理でしょう!? こっちのことも少しは考えてみてよ…! 「梅雨さん…」 「ひぅ!?」 唐突に――名前を呼ばれたと思ったら、生暖かいものが私の耳に触れた。 先程から熱い呼吸が送り込まれているのだ。耳に触れたそれが何なのかわからないはずがない。信じたくはないけど! 「梅雨さん…」 「ひぁ、や…やめて、不破くん…!」 「僕の名前を呼んでくれるまでは…止めませんよ」 ふう、と湿った耳の穴に息を吹き掛けられる。 私は全身に痺れが入ったように震えて、力の入らぬ手で不破くんの体を押した。 「(ほら…梅雨さん、そんなに焦らさないで)」 「(あっ、焦らしてなんか…ない、ぃ!)」 「(だったら、言えるでしょう?早く僕の名前呼んでみて。雷蔵、って)」 「(ん…あっ、だめ、あ…!)」 くちゅくちゅ、という音がやけにはっきりと聞こえる。 不破くんは舌を使って丹念に私の耳を舐め上げ、肉を甘噛みし、穴に突っ込んだ。 その度に私の体は言うことを聞かず、膝を折ってしまいそうになる。 唯一、ここが図書館であるという事実が、私の理性を繋ぎ止めていた。 「強情だなぁ…」 不破くんは呟くと、片方の手を胸に伸ばした。 やわやわと持ち上げられるように揉まれるが、そこまで直接的なことをされるとまずい。 私は不破くんの体に抱き着くと、弱々しい声を出して言った。 「(っ、らいぞ、くん…)」 「聞こえませんよ」 「雷蔵、くん…!」 私が不破くんの名前を呼んでいる間も、不破くんは手と舌の動きを止めなかった。 首筋まで丹念に舐められる。 結局、私はそれから何度も彼の名を呼び続けたのだが、彼が満足するまで解放はされなかった。 体を離された時には、すっかり腰砕けである。 ご丁寧にも、耳は両方可愛がられた。 「梅雨さんって、こんなところでも欲情できるんですね。僕の想像以上です」 そう言う不破くんだって、しっかりと股間を膨らませていたのだから、人のことは言えないんじゃないかと思った。 |