「や…待って、」
「待てない」
「だっ、あぁぁ…っ」

気を抜いていた分、入る事にはすんなり入ったのだが、止めようとした声は掻き消された。

兵助は梅雨の腰を掴み、自身の腰を落としていく。
梅雨の口からは絶えず艶っぽい声が漏れた。

「――はぁっ」
「…やめてって言った割には、いい顔してるよ」
「だって…兵助が入ってくる時が1番キモチいいんだもん」
「じゃぁずっと動かなくてもいいのか?」
「それはダメ」

きっぱりと言い切った梅雨の唇にキスを落とし、兵助はにんまりと笑った。

「上等」

それからゆるやかに律動が開始され、梅雨は兵助の首に腕を伸ばした。
声を漏らすのと同時に、目をつむる。
これは梅雨の癖だった。

「あ…っん、ねぇ…兵っ助、え…んんっ、」
「なに?」
「きょ、つけ…あっ、ない、でしょ…はっ、あ…っ…ゴムっ」
「あぁ、」

兵助の首にしがみつきながら、何とか言葉を絞り出してみれば、兵助の声は拍子抜けするくらい普通で。
しかも今更止めようともしない。
梅雨は止めたくても、自分では止められなかった。
止めなければいけないはずなのに。

ずんっ、ぬちゅ、くちゅ、ぬちゃ、

「あっあっはぁ…あぁっ!」
「そういえば梅雨、今日は危険日だったよな…」

そう言った兵助の顔を、うっすらと開いた瞼の間から覗いてみれば、やはりどこか余裕の表情をしている。
どうしてこいつはこうも余裕なんだろうかと、梅雨は不思議に思った。
が、今はそれよりも一言文句を言ってやりたい。
涙目で睨み付ければ、更に兵助の欲情を掻き立てるだけとは知らずに、梅雨は舌ったらずな声を出した。

「んっ、はっぁっ、わかってるなら、最初…っからぁ…あっ、んんっ」
「だから中には出さないよ」

ぬち、と兵助が梅雨の奥を突いてくる。
梅雨は不安が消え去った訳ではないが、押し寄せる快楽の波が全てを忘れさせる。
首筋に顔を埋められたかと思うと今度は吸い付かれ、痕を残された。
普段は見えるところには絶対にしない兵助なだけに、梅雨は酷く驚いた。
しかしそれを問い質す前に、兵助が梅雨の体を持ち上げた。

「ひぁぁっ、な…にっ」
「駅弁。梅雨、足を俺の腰に絡めて」
「んっ…こう?」
「そ。このまま動くから」

ぐち、

兵助と梅雨は、ベッドに座ったまま向かい合って繋がり、兵助が腰を打ち付けた。

「あぁっ」

梅雨は相変わらず兵助の首に抱き着き、激しく揺れる体を何とか保つ。
兵助はいつの間にか真剣な顔付きになって、挿入を繰り返していた。
ゴムがない分、限界が訪れるのが早い。
わかっていたことだが、現実にそうなるとまだ離れたくないと思う。
梅雨のナカがキュッと締まった。

「梅雨、もう限界っ?」

笑ってやりたかった兵助だったが、自身の声も思ったより掠れて余裕がなかった。
梅雨は涙目になりながら、揺れる体の首ををさらに動かして、頷いた。
俺がイク前にイカしてやらないとな。
兵助は無意識にそう判断し、更に腰の動きを強めた。
ぬちゃり、と梅雨が好きそうなスライドを繰り返し、何度も打ち付ける。
限界が近づいた梅雨が横たわる事を望んだので、そのまま最初の正常位に戻った。
背中に安心感を覚えた梅雨は、今度こそ絶頂を迎えそうになる。

「あっやだっあっ、あっ…、へーすけぇっ」
「っんん、そんなに締めるなって…」
「だっ…むりぃ、あぁんっも…っ!」

キュキュキュキュッ――と、梅雨の中が最高に締まった。
兵助はその気持ち良さに射精したくなるが、堪えて無我夢中で腰を動かし続ける。

「へーす…ぁぁっ」
「梅雨、悪ぃ…っ!」

そしてついに限界だと悟ると、梅雨の中から引き抜いた。

「っぁ…」

どくん、びくっ…!

白濁した兵助の欲望は、梅雨の腹の上で弾けた。
射精の快感に浸った兵助だったが、梅雨がイク前に抜いてしまった事を思い出し、一瞬後悔した。
が、梅雨を見ると、梅雨は小さな声を漏らしながらピクピクと体を震わせている。
どうやら兵助が抜き去ったと同時にイッたらしい。

「梅雨」

荒い息のまま、ちゅっと兵助が口づけた。
イッたばかりで正直余裕のない梅雨だったが、兵助のキスは好きだったので何とか応えようとする。
何度か深いキスを繰り返し、離すと、梅雨はぼんやりと兵助の顔を見上げた。

「兵助…」
「ん?」

名前を呼んだ後、好きだよと伝えた。
兵助は笑って「俺も好きだよ」と返す。
腹に伝う白い液は、段々と熱を失っていった。



「――っていうかさぁ、外に出せばいいって問題じゃないからね」

最近の兵助っていつもこうだよね、と、あの後シャワーを浴びた梅雨が兵助の横で文句を言った。
お互いまだ裸なので、素肌に触れるシーツと体温が心地良い。
聞いてるの? と口を尖らせた梅雨だったが、当の兵助は眠たそうにあくびをした。

「子供ができちゃったらどうするのよ」
「…どうもしないよ。梅雨と子供一人くらいなら、俺でももう養えるし」
「は…?」
「なに。子供欲しくないの?」
「いや…そうじゃないけど、」

いや待て待て待て、と梅雨は首を振った。
これは何か重要な事を言われているのはわかる。
しかし自惚れてはいけない。
兵助の言っている事が自分の考えている事と一致しているかどうか、確かめる必要がある。

「それって…そういう意味で言ってるの?」

勇気を出して聞いてみれば、兵助は短くあぁと答えた。

「え…マジで」
「嘘はつかない。…梅雨、来週末予定空けといて」
「何で?」
「梅雨んとこの実家に挨拶しに行くから」
「うん……って、えぇぇ!?」

驚いて声を上げれば、兵助はうるさいなと表情を歪めた。
そして言葉が出ない梅雨に向かって、一言。

「どんなに反対されても、親父さん必ず説得してやるから」

にんまりと笑った顔は、やはりどこか秘策を持っているようだった。

策士家


…案の定「結婚なんかまだ早い!」と反対していた父は、兵助の言葉に転がされてあっさりと意見を変えた。
「すぐにお孫さんの顔を見せにきますから」ってさぁ…

兵助は相当な策士家なのだと、私はこの時改めて認識させられた。

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