時間を少し戻して、私には入学式の日に一目惚れをした人がいる。私が通う高校の体育館の裏には、本当にたくさんの桜の木がある。あたり一面桜色の光景にひきよせられて、あと少しで入学式が始まるというのに私は外に出た。満開の桜の木の下で、いくら散っても花びらは減ることがないように見えて、圧倒的な光景にただただ見とれていた。すると近くでほうっと溜め息が聞こえ、そちらを見るとひとりの男の子が、私と同じようにして桜を見ていた。おそらく私と同じ新入生なのだろう、真新しい制服がよく似合うその男の子は、白いほっぺたを桜と同じ色に染めてとても嬉しそうに桜の花吹雪の中に立っていた。すっと伸びた背筋に意志の強そうな太い眉が印象的なその姿を見た瞬間、私はその男の子のことがどうしようもなく好きになってしまったのだ。私、一目惚れなんて、初めてした。その場から動けなくなってしまった私が立ちつくしていると、不意に体育館から出てきた先生と思われる人に叱られてしまった。いつの間にかもう式が始まる時間になっていたのだ。
後から知ったのだけれど、その男の子の名前は、久々知兵助くんというらしい。






唐突だが俺は高校に入学したその日に好きな人ができた。入学式が始まるまで校内を少し見学しようと思いつき、友達が止めるのも聞かずあちこち歩き回っていた。そろそろ式が始まる時間だなと思い体育館へ向かうと、体育館の裏にものすごくたくさん桜が咲いているのが見えてつい足がそちらへ向いた。桜の森と言ってもいいくらいのその場所へ近づいていくと、先客がいるのが見えた。多分俺と同じ新入生であろうその女の子は、目をきらきらとさせながら桜の花びらが舞うのを見ていた。嬉しくて楽しくてたまらないといった表情のその子を見ているとついこちらの表情までゆるんでしまう。風が吹くたびにその子の髪の毛が揺れて、桜の花も散る。その光景がとてもきれいで思わず溜め息をついた。するとその女の子がこちらに気づいた気配がしたので、あわてて顔をそむけて桜を見ているふりをした。俺が見ていたのを気づかれてしまっただろうか。顔に熱が集まるのを感じた。
 その後すぐに先生に注意されてその子と俺はあわてて体育館へ戻ったが、席に着いてもまだ顔が赤いのはひいていなかったようで勘右衛門に何かあったのかと質問攻めにあった。質問を上の空で返しながら、これが一目惚れというものなのだろうかと考えていた。
 後に知ったのだが、その女の子の名前は蛙吹梅雨さんというらしい。

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