何だ…知っていたのなら話は早い。
私は態勢を少し楽にして、久々知先輩の話を待った。

「それで、話って何ですか?」
「…また、男のところに行くんだな」
「そんな言い方ないんじゃないんですか?久々知先輩だって、その一人だった訳ですし」

自ら擦り寄ったのではなく、久々知先輩の場合は完全に先輩からだ。私は悪くない。そう自分に言い聞かせて、強気な態度を崩さなかった。

「お前…何でそうやってすぐ他の男のところにいくんだよ」
「そんなにいってませんよ」
「嘘付くな。先々週だって合コン行ったし、先週はハチと飲みに行っただろ?今日だってこの後…」
「お言葉ですけど、合コンの何が悪いんですか?私を可愛がってくれている先輩と飲みに行って何が悪いんですか?久々知先輩だって、飲みに連れて行ってくれたじゃないですか。それと何が違う…」
「違うだろ、俺と他の男じゃ色々と」
「あぁ、手を出してしまったということがですね」
「っだから、そうじゃない!俺と蛙吹さんは…付き合ってるんだろ!」
「…へ!?」

久々知先輩の発言に目を丸くしてしまう。それまでそらしていた視線を、久々知先輩に向ける。
久々知先輩はとてもつらそうな顔をしていた。でもって先輩は今、何と言った…?
付き合ってる?恋人?私と久々知先輩が?

「久々知先輩…何の冗談ですか?私と付き合ってるだなんて…」
「蛙吹さんこそ何言ってるんだよ。冗談で俺はこんなことを言わない」
「あぁ…それっぽいですよね、久々知先輩の性格って」

真面目で、決して嘘をつきそうにない誠実な人。久々知先輩のイメージはこんなところだ。
しかしそれが真実だとしたら、え、私は本当に久々知先輩と付き合っているということで…?私の頭の中ははっちゃかめっちゃかだった。

「どういうことですか、それ…!いつ私が久々知先輩の彼女になったんです!?」
「一緒に飲みに行った日、ホテルで。シャワー浴びに行く前に、抱きしめて「好きだ」って言ったら、「私もです」って答えたじゃないか…」
「えぇぇぇ、そんなの覚えてないですよ!」
「なっ、覚えてない!?」
「全然、これっぽっちも!大体シャワー浴びる前って、私がベロンベロンに酔っ払ってた時じゃないですか!」

そんな時に言われても、記憶がある訳がない。うん無理。私は悪くない。酔った私に付け込んだ久々知先輩が悪い。これ確定。

「それに私、どちらかというと久々知先輩に苦手意識持ってたくらいですし…」

本人に言いにくい本音を、このままではまずいなと思って伝える。しかし久々知先輩はそれにも肯定して、

「知ってる。あの日の夜もそう言われたよ」
「!?」
「俺はとっつきにくくて素っ気なくて、それなのに仕事ができるのが凄く腹ただしいとも言われた」
「はは…は…」

私、そんなことまで言っちゃったんだ。随分と極論だな…。

「でも、自分を見捨てないで面倒みてくれるとこや、母校の話をする時に表情が柔らかくなるところが好きなんだって言ってくれた」
「っえー」
「嘘じゃない。本当に蛙吹さんがそう言ったんだ」
「って言われましても…」

覚えてないもんは覚えてないし。あ、あれ?でもなんかこの様子だと、記憶がないにしても私の方が不利なんじゃ…
久々知先輩に好きと言ってしまったのは、本当らしいし。となると先週言われたあの言葉の数々は、全部私を心配してのもの?彼氏だから当然の態度だって?
気付いた途端、私はさぁっと血の気が引く感覚がした。

「つ、つまり…恋人である私が他の男にフラフラするのは嫌だったってこと…」
「嬉しいはずがあるか」
「じゃ、じゃぁそれならそうと言ってくれればいいじゃないですか!そんな回りくどいことしなくても…小まめにメールでも何とかしてくれれば、私だってもっと早くに気付いたのに…」

そうよ、早い内から「好きだよ」の一言でも言われていれば、私は久々知先輩のことをおかしいと気付くし、それに見合う対処もできただろう。それなのに久々知先輩は「これからよろしく」の一言もなく、会社では以前と変わらない態度をとるから…私は、気付けなくて……

「、久々知先輩?」

久々知先輩は何故か視線をそらして頬を赤く染めていた。え、何で何で?

「っ、だから本当は…蛙吹さんがハチと飲みに行った日に、どこかに誘おうと思ってたんだ…」
「え?」
「だけど朝から緊張したせいで、仕事はらしくないミスをするし…蛙吹さんとは連絡が取れないし…」
「………」
「結局朝までろくに眠れなかった」

そりゃぁ…災難である。私が言えた義理じゃないけど。

「ようやく繋がったと思ったら、ハチと飲みに行ってたって言うし…俺の方こそ訳がわからなかった。付き合ってるのに、何でこんなことをするんだって……あまつさえ、お持ち帰りは免れた?蛙吹さん、自覚ないんじゃないの?そう思ったんだ」
「それは……私も悪いと思います」

でも、どちらか一方が悪いんじゃない。私たちは互いにすれ違っていたのだ、と思う。

「何か、色々とすみませんでした」

私が頭を下げて謝ると、久々知先輩は短い息を吐いて「俺も色々酷いこと言っちゃってごめん」と言ってくれた。

<< < 1 2 3 4 5 6 >
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -