翌日、昼近くに目覚めた私は、携帯に入っていたメールを見て顔を真っ青にする。
送り主は久々知先輩。内容は……考えたくもない、まさか二度目の、仕事のミスのことだった。どうやら私はまた勘違いして、久々知先輩の手を煩わせてしまったらしい。
私はすぐに久々知先輩に電話をかけると、久々知先輩は眠そうな声で出た。

「おはようございます、あの…蛙吹ですけど。昨日はすみませんでした!」

開口一番に叫ぶ勢いでそう伝えると、回線の向こうから『あー…』という鈍い声が耳に届いた。

『そのことなんだけど、気にしなくていいよ。実は俺の指示が間違ってたことが原因だから』
「えっ、私のせいじゃないんですか?」
『うん、違う』
「でも…久々知先輩がミスをするなんて…」

私は信じられなかった。もしかして、もう面倒臭いから自分のせいにしてしまおうと久々知先輩は思ったのだろうか。もしそうなら、申し訳なさすぎる。
しかし久々知先輩は柔らかい声で、『俺だって失敗するよ』と言った。

『失敗しない人間なんていないし』
「それはそうですけど…」
『それより昨日はどうして連絡取れなかったの?俺にはそっちの方が気になるんだけど』

そりゃそうか。今回は良かったとしても、仕事の連絡ならちゃんと電話に出なきゃいけない…今後も同じことがあってはならないと、久々知先輩は心配しているのだ。
私は白状して、昨日は飲みに行っていたことを伝えた。そして、疲れて寝てしまったことも。

『飲みにって、誰と?』
「あの…竹谷先輩です…」
『ハチと?』
「はい…」
『そう…』

何だか久々知先輩の声が段々と不機嫌になっている気がする。

『あんまりこういうことは言いたくないけど、』

と前置きをしてから、一気に喋る。

『蛙吹さんさ、お酒には気を付けた方がいいんじゃない?飲んで流されたって、後で傷付くのは自分なんだし。仕事の連絡が付かなくなるなんて、それこそ問題だよ』
「すみません…肝に命じておきます…」
『今回は良かったけどね、あんまり尻が軽いのも俺はどうかと思うし』
「っ…」
『俺はそんな子は好きじゃないよ』

な…何を言ってるのこの口は!?
尻軽は好きじゃない?その女を抱いたのはどこの誰よ!しかも性欲が収まらず二回も!
私は久々知先輩の物言いに頭に来て、内心ぶちぶちと抗議の言葉を並べ立てていた。

『ねぇ、聞いてるの蛙吹さん?』
「っ、聞いてますよ!」
『ハチには手を出された?』
「おあいにくさま、今生理なんで。お持ち帰りは免れました!」
『なっ…早速危なかったんじゃないか!』
「ご心配いりません。ちゃんと告白もされましたから」
『えっ?』
「次に会った時にはちゃんと返事をして、身の振り方を決めようと思っています」

私はそれだけ言い切ると、「もう他に連絡はありませんよね?失礼します」と言って電源ボタンを押してしまった。途端に暗くなる画面。私は、溜息を吐いて再びベッドに身を預けた。

全くもう…久々知先輩って何なの?自分のしたことは棚に上げて、私のことばっか責める?意味わかんないんだけど。
私の中の久々知先輩が崩れる。素っ気なくても、そんなことは言わない人だと思ってたのにな…所詮久々知先輩も人の子、気に入らない部分があるということか。私の方がもっと気に入らないんだけど。


それから休み明けに出勤した私たちは、互いにぎくしゃくした雰囲気の中仕事を進めた。私は久々知先輩に言われたことをして、帰りは挨拶もそこそこにさっさと帰宅。またお酒飲んでいるところを見付かったら、ネチネチ言われるに決まっている。そんなのごめんだ。ごめんだけど…


『梅雨、金曜にまた合コン行かない?今度こそいい男が揃ってるから!』
「わかった、行く。運命感じたら即お持ち帰り頑張るし」
『うははっ今から気合い入れすぎだよ』

入れすぎなもんですか。
私は友人の誘いに二つ返事で返し、再びやってくる週末に気合いを入れた。竹谷先輩へは悪いけど、合コンでハズレた時に付き合ってもらうことにしよう。何にせよ私だってそろそろ彼氏ができないとマズイ。私だってね、危機感感じてるんですよ久々知先輩。

「蛙吹さん、ちょっと待って。仕事のことで話がある」

終業後さてこれから合コンだ!と気合いを入れた金曜日、私を呼び止めた久々知先輩は使われていない会議室に引っ張ってきた。嘘。仕事の話なんて嘘でしょ。そんなの、いつだってできたはずなのに。

「すみませんけど急いで貰えますか?今日は予定が入ってるんです」
「知ってる。合コンに行くんだろ」

久々知先輩は不機嫌な、どこか思い詰めた顔をしてそう言った。

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