水曜日っていうのは多くの会社がノー残業デーを取り入れているもので、うちの会社も例に漏れず、オフィスは六時には暗くなった。
皆が帰ってから着替えようと思っていた私は、トイレの個室にこもって時間が過ぎるのを待つ。ついでに昼間の久々知先輩の態度から、一度は傾きかけた気持ちを再び先輩後輩に切り替えるのに躍起で、他のことなんて考えられなかった。
だめよ梅雨。久々知先輩は私のことをただのダメな後輩としか思ってないんだから。好きになったっていいように遊ばれるだけ。そもそもあんた、久々知先輩のこと苦手だったでしょ。あれだけ顔が良くて仕事ができて性格も良くて非の打ちどころがない先輩を相手に、苦手意識が抜け切らなくて……あれっそんな人を普通嫌ったりする?もう訳がわかんないんだけど。

久々知先輩はただの先輩。昨日は仕事の尻拭いさせられて、一発やらなきゃ割に合わないと思ったのだろうそうなのだろう。実際には二発抜かれた訳だけど。
抱き方、少ししつこかったけど優しかったしな。フェラも強要されなかったし、むしろ久々知先輩がクンニしてくれたし。久しぶりにいいセックスができたと思う。久々知先輩はいつもそうなのかな。何となく、セックスは下手そうな気がしてた。だって人間、一つくらい欠点があるのが普通でしょ?
決してあのセックスに病み付きになったとか…そんなんじゃないんだから。

ピリリリリリ!

「うわっ!…て何だ、メールか」

驚かせないでよもう。
私は掛けてあった鞄から携帯を取り出し、受信したメールを開く。相手は学生時代の友人だった。
週末合コンに行かない?送られてきたメールの内容は、要約するとそんなとこだ。合コンねぇ…

「そういえば最近は全然行ってなかったな…」

仕事に慣れるまで他の事に気を回してられなかったし。学生時代はよく色んな人と会っていっぱい遊んでたんだけど…それも今思い出すと昔の話か。ああ、自由だった学生の頃が懐かしい。そして返事をどうするか。
私は少しだけ悩んで、OKの返事を返した。どうせこのままいても干からびるだけだ。ならば少しでも自分からチャンスを掴みにゆかねば。久々知先輩のことなんて知らないし。昨日のことを忘れるためにも、新しい恋というのは必要だ。
よし、ならば準備は必要。今日は帰ってパックでもするか、と意気込んで個室を出た。当たり前だけど会社の中はしんと静まり返っている。





「おはよう、梅雨」
「…おはよう」
「何、朝から暗いけどなんかあった?」
「んー…土曜に合コン行ったんだけどさぁ、色々最悪で」
「それで朝から落ち込んでるの」
「それはまぁ…そうなんだけど。直接の原因は、その合コンに誘ってくれた子と昨日はずっと飲んでたから」
「なんだ二日酔いか」
「調子にのってあんなに飲むんじゃなかった…あの子が酒豪だってことすっかり忘れてたわ」

オフィスに向かいながら同期の中でも仲の良い友人に週末の出来事を語る。新しい恋!なんて意気込んで参加したのに、相手は40近いおじさんばっかで、正直会った瞬間帰りたくなった。無理。そう思った私たちの心情なんて知らず、おじさんたちは「こんな若い子たちと合コンができて幸せだなぁ」なんて気持ち悪いことを言ったので、当然ながら一次会でお開き。連絡先を聞いてくるウザイおじさんもいたが、私たちはダッシュで逃げてその鬱憤を晴らすように昨晩は酒に溺れていたのだ。

「うー…もう馬鹿した」

友人と別れふらふらと自分のオフィスに向かう。と、足がもつれて転びそうになった時誰かにぶつかった。

「っと、大丈夫か?」
「すみません……あ、竹谷先輩」
「おぉ、蛙吹か」

顔を上げるとそこにはいつも明るい竹谷先輩の顔があって、私は頭が痛いのも忘れて笑顔になった。

「何だ、体調悪いのか?」
「いえ、大丈夫です……ここだけの話、二日酔いで」
「あー、酒かよ。まぁ若い内はよくあるしなぁ、俺も頭抱えて出勤したり…」
「先輩もそんなことがあるんですか?」
「あるある。だって俺酒好きだし」
「じゃぁ気が合いますね。私も大好きなんですよ。そんなに飲めませんけど」
「そうなのか? じゃぁ今度飲みに行こうぜ!」
「いいんですか?」
「おう、酒はやっぱ誰かと飲むのが楽しいしな!」

その気持ちは私も良くわかる。そして竹谷先輩はまさに飲み会のムードメーカー的存在だろう。こう気軽に誘ってもらえると、私も嬉しくて仕方がない。

「じゃぁ、今度連絡下さいね」
「おう、予定空けとけよ!」

オフィスの前で竹谷先輩と別れ、私は本日の仕事へと向かった。




それから私は久々知先輩のことをそれほど意識しないようになり、仕事の先輩後輩という立場を改めて確立した。相変わらず逆らえないような存在であるが、今まで持っていた苦手意識とかそんなのは不思議と取り払われて、関係は良好。いい社会勉強になったじゃないか、と思えば全て水に流せる気がした。

「蛙吹さん、これコピー20部よろしく」
「わかりました」

私は今日も、久々知先輩にくっついて働く。

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