夜もふけった頃、私は部屋を抜け出して蛙吹の部屋に忍び込む。 「蛙吹」 「鉢屋くん!」 私が声をかけると、蛙吹はぱっと顔を綻ばせて、招き入れる。 私が来る時蛙吹がしていることはまちまちだが、格好はいつも同じ。 薄い夜着に身を包み、布団を敷いている。 端から見れば、男女の逢瀬のそれ。 しかし私と蛙吹の場合、間にそんな甘いものは存在しない。 私は蛙吹に色の実習のため、その手ほどきをしてやっているのだ。 「ちゃんと予習はしておいたか?」 「えっと…したけど、正直よくわからなくて…」 「あぁ、読んだんならいい。後は私が実際に教えてやるから」 枕元に置いてあった本を一瞥し、蛙吹の体を引き寄せる。 私が予習の為に読んでおけといったのは、さる筋から手に入れた閨での作法の指南書だ。 蛙吹にもわかるよう、なるべく易しいのを選んだつもりだったが… 羞恥心が邪魔して、内容が飲み込めなかったんだな。 私が蛙吹の体を抱いて肩や背中を撫でていると、ぐっと顔を近付けてきた。 あっという間に重なる唇。 「…ふむ」 一応、最初の部分くらいは実行できるのか。 「あの…だめだった?」 自分から唇を重ねてきた蛙吹が、おずおずと尋ねる。 「いや、それでいい。可愛い接吻じゃないか」 「か…わいいって…」 「関係ないと思ってるか?十分必要なことだぞ。相手に可愛いと思わせてこそ、色の術だろう」 「そうだけど…」 面と向かって言われるのは恥ずかしいというやつか。 そうやって伏せ目がちになるのも十分そそる仕草だとは、まだ気付いていないんだろうな。 「いいよ…そのまま、私の体に触れてごらん」 先を促せば、蛙吹は遠慮がちに私に触れてくる。 最初は手や腕、肩といった無難なところ。 上へ上へと辿って、私の頬に触れる。 それからまたやんわりと口付けて、首筋をなぞりながら……手が止まった。 この先、進んでいいか迷っている。 「ん…今日は私も脱ぐから、そのまま中に入れていいよ」 「うん…」 袂から、するりと蛙吹の手が差し込んでくる。 私の胸や腹を撫でながら、触れた胸の突起に戸惑った。 少しずつ、この先のことも教えてやらないとな。 「蛙吹」 「はい…」 「閨では普通、女は受け身で自ら男を煽る行為をほとんど行わない。だが、お前はくのいちを目指しているんだよな?その為には男の体も知り尽くさなければならない」 「………」 「先日、私が蛙吹にしてやったことを覚えているか?そこをどんな風に弄れば気持ちよくなるか…考えてやってみろ」 私の言葉に、蛙吹は今にも泣きそうなくらい顔を赤らめ、ちらりと私の顔を盗み見た。 それから、十分悩みながらも、ゆるゆると胸の周りを触り出す。 男の体をこんな風に触るのは初めてで、女の体とは違い、勝手がわかりにくいのだろう。 女は凹凸がはっきりしてるからな。 「あ……な、なんか固くなってきた…こんな感じでいいの?」 「触り方はな。欲を言えば、もっと焦らす要素が欲しい」 「た、例えば?」 「舌で周りをくるくる舐めるとか」 頂点を弄られるのもいいけど、周りから攻められるともっといいんだよな。 それを伝えると蛙吹は、や、やってみると言って体を屈ませる。 生暖かい舌が触れた時、私の体には甘い痺れが走った。 「ん…ふぅ、ちゅ…ちゅう……」 「蛙吹、愛撫において重要なのは舌使いだ。それを極めればどんな男だって簡単に落ちる」 「ふ……ちゅ、は…んん…はぁ……」 「そうだ…ただ吸えばいいってものじゃない。舐めて相手を感じさせるんだ。ゆっくり、丹念に…強弱をつけて……」 「んんっ…ぁ……っふ…」 私の胸を夢中で舐める蛙吹の姿を視界に入れて、私も蛙吹の体に触れる。 背中をなぞり、頭を撫でる。 蛙吹は懸命に愛撫を施した。 左右とも、私の胸は蛙吹の唾液で濡れている。 「言ってしまえば体中、どこだって性感帯だ。どう触るかによって、反応が変わってくる」 「うん…」 「胸で十分男を煽ったら、段々と下に向かうべきなんだが…」 「うん、?」 「今日は私から脱ぐ。男の一物を見ても、騒ぐなよ」 ここまでくるのがやっとの蛙吹に、褌を外してみろと言ったところで実行はできまい。 私は自分で結び目を外し、蛙吹の前に晒け出してやる。 蛙吹は初めて見る男のそれに、目を丸くして食い入るように眺めた。 「そうまじまじと見られると恥ずかしいんだが…」 「あっ、ご、ごめん」 蛙吹は慌てて視線をそらす。 頬が赤かった。 「これが、臨戦態勢…というか十分に反応した男の状態だ」 「す、凄い…本当に勃ってる…」 「………。本来なら、これを十分に濡れた蛙吹の中に挿れて、私も達するのだが…本番はしない約束だからな。手で私を満足させてみろ」 「触っても、いいの…?」 「あぁ。そっとな」 言葉通り、蛙吹は恐る恐る男根に触れた。 触られた瞬間、私の方がピクリと動いてしまったから、驚いてしまった。 「あ、あったかい…」 「血液が集中してるからな」 「これ、どうやったら鉢屋くんは気持ちよくなれるの…?」 「掴んで、ゆっくり上下に動かすんだ。男のこれは、上下に擦られると皮が動いて気持ちよくなる」 「そうなんだ…」 「だが、これが一番難しいところだ。力加減と速度、そして感じる場所が人によって違う。もちろん大きさも。どういう風にしたら相手が一番気持ちいいのか…相手の様子から、それを判断する。絶対上手くいく方法なんてないから、そこは忘れるな?」 「わ、わかった」 蛙吹は真剣に私の一物を見つめながら、言われた通りに上下に動かす。 どうやらキツク握ってしまうと痛いだろうと考えているらしく、触り方が酷くもどかしい。 確かに、力任せに握られたら痛いけど…もう少し強く握ってくれた方が、気持ちいい。 「私のは、もう少し強くても平気だ」 蛙吹の手の上から一物を掴み、上下に動かした。 「あ…先から何か、出てきた…?」 鈴口から漏れた液体を目に留め、蛙吹は首を傾げる。 「先走りの液で…男は気持ちよくなるとこれが出てくる」 「じゃぁ今、鉢屋くんは感じてる?」 「そこそこな」 「えー…」 「仕方ないだろう。まだ蛙吹は慣れていないんだから」 再び蛙吹だけに握らせて動かさせる。 蛙吹の動きは単調で、それはいいんだが要領を得ていない。 ただ動かしているだけだ。 結局その日は蛙吹の手では達せなくて、私の方が疲れて役に立たなくなった。 蛙吹は申し訳なさそうな、悔しそうな顔をしている。 「口を使うようになったらもっと簡単になるから、そう落ち込むな」 「だって…なんか…なんか……」 「代わりに私が蛙吹を満足させてやろう。ほら、今度は私に身を預けて」 若干ふて腐れ気味の蛙吹に口付けを落とし、布団に押し倒す。 蛙吹は慌てて口を挟んだ。 「そんなっ、いいよ!私、今日全然上手くできなかったし…またあんな、恥ずかしいこと…」 「慣れる為にはとにかく経験の積み重ねだ。それに、蛙吹の感じるところを自分で知るのも、大切なことだぞ」 「っ……!」 「できれば、普段から自分で慣らしてくれると助かるんだが…」 「無理!そんなの絶対無理!」 「…そう言うと思ったから、やっぱり私がするしかないんだよな」 正直生殺し状態でキツイのは私の方なのに…。 ぶんぶんと首を振る蛙吹の胸に触れながら、私はまた自身が反応するのを感じ取った。 << < 1 2 3 4 > |