少しだけ、ホントに少しだけ流血注意。




怪我をした作兵衛が医務室に運ばれてきたのを見たとき、心臓が止まるかと思った。
実習で負ったというそれは私にそれだけの影響を与えるほどのものだった。
血まみれで一瞬だけ死んでしまったのかと思わせるほどだった。
迷子探索に出来る傷なんかと比べものにはならなかった。
真っ青な顔をしているのは私だけではない。
たまたま居合わせた2年生の川西君やここまで連れてきた3年生の面々も顔色は蒼白だった。
まるでみんなの血を富松が奪ってしまっているみたいだった。
いつも元気のいい神崎も大半開いている大きな口をぎゅっと閉じている。
だんだん立っているのも辛くなってきた。
軽い貧血状態だろう。
ふらふらする体を次屋が支えてくれる。


「大丈夫か?蛙吹」

「うん…大丈夫」

「無理するなよ」

「うん…大丈夫」


同じ返答を繰り返す。
ごめん、嘘。
大丈夫なんかしゃない。
治療の終わった後も、私は作兵衛の近くにいた。
近くにいてずっと手を握っていた。
日頃から作兵衛の手は冷たかった。
別に今に限ったことではない。
心が温かい人は手が冷たいんだな!
と神崎が笑いながらからかっていたのを思い出す。
それが今じゃ、このまま熱が無くなってしまうのではないかと思ってしまう。


「蛙吹さん…少し休んだら?」

「大丈夫です」


作兵衛は一向に目を覚まさなかった。
怪我は命には別状はなかったはず。
それなのに、まるまる二日は寝たままだ。
その間私はずっと作兵衛の手を握っている。
いつでも私が熱を分けてあげれるように。


「大丈夫じゃないよ。それじゃあ、君が倒れちゃうでしょ?」

「…大丈夫です」

「………」

「だって、手を離したら、作兵衛死んじゃうかもしれないでしょ?…作兵衛の手、とっても冷たいんです」

「……蛙吹さん」


善法寺先輩は納得したような諦めたような顔で頷いた。
そこにいるといいよ。
先輩は言った。


大丈夫。富松は目を覚ますから






手をぎゅっと握って私の熱を作兵衛に移す。
時々様子を見にいろいろな人が来てくれた。
神崎に次屋。
浦風君に三反田君、伊賀崎君。
同じ委員会のみんなに。
川西君と二年生の子達はなんだか複雑そうな表情をして帰って行った。
そしてそのドアからひょっこりと顔を出したのは保健委員の一年生二人。


「先輩は…どうして富松先輩のそばから離れないんですか?」

「そうですよー…疲れちゃいますよー…」


疲れないよ。
私は即答した。
だって私は作兵衛の恋人だもの。
困ったときに隣にいるのが役目でしょ?
そう言うと一年生の二人は納得してくれた。
作兵衛目を覚まして。
早くあなたと話がしたい。








「富松の様子はどうだ?」

「まだ何も変わってない…」

「そうか…」


つないだ手をぎゅっと握りしめる。
神崎と次屋は作兵衛がいないと帰ってこないと周りが思ったらしく、誰かが見つけ次第医務室に連行されてきている。
今日も、今さっき来たばかりだった。
二人ともいる。
その手が少し反応したように思えた。
目を覚ますのかもしれない。


「作兵衛?」

「なんだなんだ!?起きるのか!?」

「左門少し黙れ…」


閉じていた目がゆっくりと開かれた。


「………梅雨か?……」

「僕たちもいるぞ!」

「左門…声がうるさい……!」

「そうか!」


さすがにいつもみたいに叫ぶ元気はないらしい。
本当に良かった。
作兵衛が目を覚ましてくれて。


「よかった…」

「梅雨、お前ずっとここにいたのか?」

「そうだぞ!蛙吹はずっと作兵衛の隣にいて手をぎゅってしてた!」

「手?」

「そ。手」


今まであまり話さなかった次屋が私が握った手を指さした。
作兵衛は赤くなった後に、手を握り替えしてくれた。


「不思議といやな夢は見なかったんだ。お前が手を握っていてくれたからだな」

「ううん、いいの」

「………ありがとな」

「…ううん。気にしないで、」


安心したとたんいきなり眠気がおそってきた。
どうも、ここ二日の疲れがいっきにきたらしい。
緊張もしてたからなおさらだろう。
びっくりした声を聞きながら私は意識を手放した。







いきなり寝てしまった蛙吹に作兵衛は驚いた。
よく見ると眠っているだけでその寝顔は穏やかだ。
作兵衛は握られている手を見て思う。
そうか。ずっと握っていてくれたんだな。


「さくべー…大好き」

「ありがとな…俺も、だ、大好きだ…」


そう言って頭を撫でるとふにゃんと顔がゆるんだ。
梅雨も、作兵衛自身も。


「さくべー!!それは起きているときに言わないと意味無いぞ!!」

「そーだ、そーだ」

「お!お前ら!居たのか!」

「ずっと居たぞ!な、三之助!」

「そーだ、そーだ」


なぜかわくわくした左門とやる気なさそうに同意する三之助に、恥ずかしくなり顔をそらした。
なんでこんな時だけちゃんと居るんだよ!
作兵衛の頭の中はそれしか浮かばない。


「よし!蛙吹を起こすか!」

「は!?なんでだよ。今寝たばっかりだろ!?」

「さっきの言葉を聞かせるんだ!」

「やぁめろーーーーーーー!!!!」







(少しくらいなら冷たくても平気。私が暖めてあげるから)








「…ねぇ、藤内。なんで作兵衛が走り回ってて、蛙吹さんが布団で寝てるの?」

「……わかんない」


後から来たは組の二人が首をかしげていたのは言うまでもない。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おそくなりましたーー(´・ω・`;)
作兵衛がほとんどでてないっていうのは気のせいです。
こんなのですいません…。
こんな私ですがこれからもよろしくお願いします!

ゆず

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