それからのことはあっという間だった。

私は三郎が出て行った部屋を解約し、荷物を兵助の部屋に運び込んで今は兵助と暮らしている。三郎とは連絡がつかない。必要なことは、その都度部屋に書き置きがあったのだと…兵助は言った。
ここまで説明すればわかることだが、部屋を解約したのも引越しの手配をしたのも、実は私ではない。全て兵助がやってくれたことだ。

兵助は優しい。私があの部屋に戻りたくないと言えば必要なものは全部取ってきてくれたし、何から何まで世話を焼いてくれていた。こんな人、滅多にいないと思う。
そんな私も、兵助の為に何かしてあげたくて、手始めに兵助に似合うエプロンを買ってあげた。それを見た兵助の第一声は「料理は毎回俺なのか?」だったのがおかしかったけど、私があげたエプロンには満更でもなさそうだった。
大丈夫、私だって簡単な物は作れるから、ちゃんと手伝うよ。兵助みたいに、豆腐料理を極めるついでに料理全般を制覇するまでの腕はないけど。

「兵助、これこっちでいい?」
「あぁ……って、梅雨は動かなくていいよ。座ってて」
「えー、でも…」
「いいから。妊娠は初期が重要なんだろ?無理しなくていい」
「こんなの、全然無理してないんだけど…」

と、畳んだタオルを脇に寄せる。それからまだ膨らみの目立たない腹部に手をやり、そこにある命に目を細めて笑った。

私のお腹には兵助の赤ちゃんがいる。避妊もせずに毎晩エッチしてたんだから、当然といえば当然の結果だけど、兵助は喜んで受け入れてくれた。三人で幸せになろう。そう言ってくれた。
過去に色々あった私が、本当にそうしていいのか悩んだこともあったけれど、宿った命をどうにかしてしまうことはできなかったし、私も幸せになりたいと思ってしまったから、私は頷いた。兵助に本当の意味で愛されたいと強く願った。
だから私はこうして、今でも兵助の隣にいる。ううん、違うな。兵助が私の側にいてくれるの。
私が側にいて欲しいと頼んだから…

でも、過程なんかどうでもいいんだ。要は、兵助が私を愛してくれて、離れないでいてくれれば。私はそれだけで幸せを感じられる。
人は、変われるものだ。変わらない部分も多いけど、人を愛すということは、その全てを受け入れるということだと私は思うから。


「兵助、ずっと側にいてね。離れちゃ嫌だよ?」
「あ?何言ってんだよ…ちゃんと一緒にいるって約束しただろう」
「うん、わかってる」

でもその答えが聞きたくて、私は何度も聞いてしまうんだよ。
ねぇ兵助、大好きだよ。ありがとう。

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