夜は別々の部屋で寝ることになった私と兵助。
兵助の住んでいるマンションは学生が住むのには広くてちょっと贅沢な、でも私も気に入ってる場所だった。この部屋で泊まることがあれば、私と兵助はいつも同じベッドで朝を迎えた。
エッチは、することもあったししない夜もあった。決して無理意地しない兵助の性格が、他の男にはない部分で、私は好きだった。

夜、そろそろ寝ようかと先にベッドに潜り込んだ私の前で、兵助はクロゼットから新しい布団を出してリビングに運び込む。

「何で?一緒に寝ないの?」
「お前俺に彼女がいるってわかってて、そういうこと言うなよ」
「泊めたんなら一緒じゃん。今更変わらないって」
「全然違う」
「…やだよ」
「梅雨?」
「やだ……一緒に寝てくれなきゃ、嫌…」
「………」

私は何てわがままなのだろうと、自分でも思う。だけど今夜ばかりは本当に一人で寝るのは嫌で、隣に誰かがいて欲しい。例え眠れなくても、人の体温が恋しくて仕方がないのだ。

「お願い…兵助……」

目を伏せて頼み込めば、兵助は短い溜息を吐いて布団を元の場所に戻した。そして、真ん中を陣取っていた私を奥へ押しやり、割って入る。
兵助は体を反対側に向けてたけど、すぐ近くにある兵助の温もりが嬉しくて、私は背中にしがみついた。あぁ、酷く安心する。昔っからこうだ。兵助の匂いは、私に落ち着きを取り戻させてくれた。
そして兵助は優しいから、私がここで眠る時には必ずシーツを替えてくれる。私が嫌な思いをしないように。私の知らない匂いが私を苦しめないように。

「兵助」
「なに」
「三郎、どうしてた?部屋に行ったんでしょ?」
「………」
「兵助に会って…何て言ってたの?」
「………」
「ねぇ、教えてよ兵助…」
「…三郎はいなかなったよ」
「いなかった?」
「うん、いなかった。それで、梅雨と同じように…必要な物を持ち出した形跡があった」
「え、」
「多分、三郎はあの部屋を出るつもりなんだろうな」

兵助の言葉に私は何も言えなくなってしまう。
そっか…三郎、出ていってしまうんだ。凄く傷付いてたもんな。別れたなら、当たり前のことか……引き止めることなんてできない。
兵助のシャツを、きゅっと握る。言いようのない不安が私を襲った。兵助の背中に頭を押し付けたまま、私は口を開く。

これから私が言うことは、今までで一番のわがまま。これ以上にない最低のわがまま。だけど私は知っている。私がどんなわがままを言おうと、兵助は絶対に聞いてくれると…

「ねぇ、兵助」

聞いて。私のわがまま。


「彼女と別れてよ」

「………」

「前みたいに、私を助けてよ。いつだって私を優先して、私の側にいて……彼女なんて作らないで、今の子とも、別れて…」

「………」

「ずっとずっと、私の側にいてよ…っ」


思わず泣きそうな声が出た。でも、堪える。私は必死に兵助の体に身を寄せ、頼み込んだ。
自分でも馬鹿なこと言ってる自覚はある。でも、どうしても譲れなかった。

「へいす…」
「わかった」

兵助は何も抵抗の言葉を発さずに、私のわがままを聞き入れた。了承の言葉と共に兵助の体が反転して、私の体を包む。温かい。大きな体。
私は兵助の胸に顔を埋め、しがみついた。

「兵助、兵助…」
「ずっと、梅雨の側にいるよ。彼女も作らない。梅雨と一緒にいるから……泣かないでくれ」
「…うん、」
「その代わり俺も男だから、側にいて何もしないってのは無理だ。そこはわかってるよな?」
「わかってる……いいよ、兵助だから…私は…」

そこまで言った時、唇は兵助に塞がれていた。柔らかく湿った感触がする。唇をなぞり、兵助の舌が割って中に入ってきた。

「んぅ…」
「っ……、ちゅ…」

何度も優しいキスをされて、私の体は徐々に熱を持つ。兵助に触れられる部分が、唇を落とされた場所が酷く敏感になり、心地いい。自然と声が漏れ出す。

「あっ…ふぅ、んや……あ…っ」

こんな声、兵助とシテる時出したことあったかな。久しぶりで思い出せない。それ以上に、兵助が与えてくる刺激で、私の頭はもう…働かない。

あぁ、兵助…兵助……



「っ、梅雨…イク…」
「んっ、ひぁう、やっ、あっ―――!」

どくん、と中で弾けた。
兵助の精子が注ぎ込まれる。兵助は奥へ奥へと、出しながら腰を突き入れた。その痛みに少しだけ現実に戻る。
私は今、ピルを飲んでない。店を辞めた時、飲むのをやめてしまったのだ。
だけど何故かそれを兵助に伝える気はなく、それどころか私はもっと兵助が欲しいとねだった。兵助が。兵助が欲しい…私は、兵助が好き……


「ね…もう、離さないで……ずっと側にいて、お願い…!」

私の涙ながらのお願いに、兵助はキスで答えた。

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