『ぐるぐる回って』の続きみたいなものです



二人で幸せになろうって決意したばっかりなのに……
神様は随分と私が嫌いらしい。否、違うか。どんなに責任を他になすりつけようとしても、悪いのは私。自業自得という言葉が的確に当て嵌まる。



事の発端は、私と三郎が一緒に外出した時のこと。街で偶然すれ違った元同僚の女の子が、三郎に私のことをバラしたのだ。
私が以前働いていたのはソープで、そして彼女もまた私と立場を同じくした、ソープ嬢だった。三郎は私が風俗で働いていたことを知らず、彼女はまだ上がれていない。

『伊織、久しぶり〜』
『は?伊織って誰だよ』
『……行こ、三郎…』
『何よシカト?あぁ、もしかして営業中か』
『違う』
『じゃぁ彼氏?へー、よく恋人なんてできたね。あれだけ色んな男に足開いてたっていうのに』
『…は?』

それはあんただって同じ事でしょう。私は言ってやりたかった言葉を飲み込み、三郎の腕を引っ張った。
三郎は私とあの女のやり取りに意味がわからず、ずっと間抜けな顔をしていた。だけど肝心な部分はしっかり聞こえたようで、前を歩く私の手を逆に引っ張っり、立ち止まった。

『あの女が言ってたことって、何?』
『………』
『色んな男に足を開いてたって…どういうことだよ!なぁ、答えろよ!!』

『……ソープで働いてたの』

人通りの多い道の真ん中で、私は三郎に隠していたことを吐露した。
三郎は目を見開き、信じられないといった顔で私を見る。通行人も、あからさまにはこちらを見ないが、興味津々に聞き耳を立てて私たちの様子を窺っていた。

『何でそんなこと…』
『借金を、返すために……』
『いつからだ』
『…三郎と会う前、二年の夏くらいから…』
『まだやってんのか』
『もう、辞めたの。借金返し終わったし…ちゃんと就職して、普通の生活に戻りたかったから…』
『………』
『黙っててごめん…私、ずっと三郎のこと騙してた』

私は俯きながらに、今までの事を語った。
不思議と周りの音は聞こえてこない。私と三郎だけが切り離されたような世界で、三郎はやがて静かに私の手を離した。

『もういい…』

掠れた声で言う。

『お前はお前で、きっと必死だったんだろう…その苦労は俺にはわからない。だけど、こんなにもお前に傷付けられたのは、初めてだ。なぁ、わかるか?俺はお前が好きだから傷付くんだよ…そんなことを言われて。何でずっと黙ってたんだよ…俺が浮気してる時だってお前、最後にならないと何も言わなかったじゃないか…』

三郎の声は泣いていたかもしれないし、ギリギリ泣かずに済んだのかもしれない。けれど顔を上げられない私に三郎の表情を確認することはできなくて、私たちはそのまま別れた。

雑踏の中、一人取り残された私は立ち止まったまま前に進むことができない。こんな時、どうしたらいいんだろう。今日は三郎と出掛けて、映画を観た後一緒に食事をする予定だった。結構前から計画してて、就活で煮詰まっている自分への、ご褒美のつもりだった。
それがこんなことになるなんて。
私には三郎を追いかける資格なんてない。捨てられたなら、それまでだ。

私は携帯を開くと、通話履歴の中からすっかり後ろに追いやられた名前を呼び出し、通話ボタンを押した。本当は間違ってるとわかりつつも、私には他に頼る相手がいないから。
私は結局、いつだって兵助に助けを求めてしまう。


後戻りできなくなると、知りながら。

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