八左ヱ門に言われて気付いた。
私の言い分が正しいとは思いつつ、こんなにも気にしてしまうのは、どこかで自分も悪いと思っているからだと。悔しいことに、全くもってその通りだった。
私は、雷蔵を心配するばかりに雷蔵の言い分を全く聞いていない。それどころか、雷蔵の気持ちを踏みにじるような行為を重ね、また傷つけてしまったんだ。悲しませるのは、あの時だけでいいと思ったのに。

雷蔵。正直私は驚いているよ。
あれだけ迷い癖のあった君が、私を追って忍術学園にまでやって来たのだから。こんなに早く会えたのは奇跡だったけど、それでも君は私に会えると信じて忍の道を目指してくれたんだね。
そこまで私を思ってくれたことは、感謝している。他人にここまで優しくされたことはないから、私はどうしていいのかわからないくらい、嬉しかったよ。再会した時はすぐにその気持ちに気付けなかったけど。


「雷蔵!」


部屋に戻った私を出迎えたのは、部屋の隅でいじけている雷蔵の姿だった。


「雷蔵……ごめん、私が悪かった」
「………」
「お前の気持ちも考えずに、全部否定して……お前が忍になれないなんて、嘘だよ」
「…三郎……」
「だけど、わざわざこんな世界に足を突っ込んで欲しくないというのも本当だ。私には、友達がお前しかいなかったから、どんなことがあっても守りたかったんだ。私の大切な人を傷付けるのは、もう沢山だったから…」
「傷付け…?三郎、君に一体何が…」
「……鉢屋に生まれた宿命さ」


私は雷蔵に、母上の事を話した。私を庇ったばかりに、大きな傷を負い…瀕死になりかけた母上のことを。
雷蔵には家が忍の家系だということは話していたが、母上のことばかりは伏せていた。だから、私の話を聞いた雷蔵は酷く驚いて、うろたえていた。


「そんな……あの人が、そんなこと…」
「だから私は、もっと強くなろうとしたんだ…母上を守れるように、自分の身くらい守れなくちゃ、何もできないから」
「っばか!気持ちはわからなくないけど…そんな大変なこと、一人で抱え込むなよ!!」
「雷蔵…?」
「言っただろ!僕はお前の友達だって……楽しいことだけじゃない、苦しいことだって共有するのが、友達ってものじゃないか!」
「っ…」
「ずっと辛かったんだろ?どうして僕にそれを言ってくれなかったんだ…僕だって、お前の支えになりたいよ!」


雷蔵は言いながら、肩を震わせる私の体を抱きしめた。
こんな風に抱きしめられるのは、母上以外では初めてだ。そして私は今、初めて友達というものの、本質を知った気がする。
雷蔵はいい奴だ。雷蔵は、私の……紛れもない、親友、だ。


「ら…いぞう、」
「っ、」
「ごめ…ん、ありがとう…」
「!」
「私……これからも、お前の友達でいて、いいかな…?」
「そんなのっ当たり前だろ!」
「っ…雷蔵…」
「今はまだ、お前の方が全然、忍としては凄いんだろうけど……いつかちゃんと、お前に肩並べられるように、僕も頑張るから…」
「…うん、」
「それまでは、三郎が手伝ってよ。そしたら僕も、きっと早く三郎に追いつけるから…」
「あぁ…一緒に、強くなってくれ…」
「一緒に、な…」


私たちはその場で抱き合って、沢山の涙を流した。
初めての喧嘩。初めての仲直り。前に別れを告げた時は一方的だったから、私と雷蔵はここから一歩また近づいて行く。
雷蔵…私が出会えたのがお前で本当に良かったよ。お前が私を支えてくれるというのなら、私だって全力でお前を忍の世界に導いてやる。そして、二人で有名な忍になろう。


「ははっ、三郎…変な顔。泣き過ぎて、変装崩れてるよ」
「雷蔵だって…鼻が真っ赤だ。私はまた、違う仮面を被ればいいから……そうだ!」


私は思い立って、今付けている仮面を解いて、目の前にいる雷蔵の顔に変装した。
雷蔵は私の素早い変装術と、変装した顔に驚いて、素っ頓狂な声を上げる。


「びっくりした…!そんな簡単に変装できるもんなんだね」
「私のは、特別さ」
「にしても、何で僕の顔なんか…」
「なに、これからずっと一緒にいるんだろ?だったらちょうどいいじゃないか。知ってるか?忍者には双忍の術と言ってな…二人で組んで行う術があるんだ」
「そうなの?」
「そこで、私たちが同じ顔をしていたら、敵はまんまと騙されるだろ?だから、いいんだよ。今は学園の奴らを、私たちの術で騙してやろう」
「僕はそこまでしなくてもいいんだけど…」


はは、と苦笑する雷蔵は、自分の顔が目の前にあることに違和感を感じているのか、あまり気乗りしてはいなかった。
だけど私自身、学園で生活する上での変装する顔には困っていたし、これから雷蔵と一緒に成長するならいいだろう。何せ組が同じ、部屋も同室ときた親友なのだから。
雷蔵が嫌と言わない限りは、ずっと雷蔵の顔を借り続けるさ。




(あれから、5年)

「よー」
「お前ら今日もべったりしてるなぁ」
「その内そんな関係だって疑われるんじゃない?」


部屋で雷蔵とべったりくっついていたら、やってきた兵助たちが次々に口を開いた。ちなみに雷蔵は図書室から借りてきた本を読んでいる。あいつらの発言に苦笑気味なところがまた雷蔵らしい。


「何とでもいえ。今日の私は一歩たりとも雷蔵から離れないからな」
「うわっ堂々と宣言したよこいつ…」
「雷蔵、鬱陶しくなったらいつでも三郎のこと追い出せよ?こいつなら土の中でも寝れる」
「何だよお前ら。そんなに俺と雷蔵の仲が羨ましいのか」
「ついに勘違いまで始めちゃったよ…」


はぁ、と頭を抱える八左ヱ門に、部屋に置いてあった座布団を投げつける。気を抜いていたあいつは顔面からそれを受け止めた。
何すんだ!と掴みかかってきたので、私はひょいと避けて、さらにまくらを投げつける。雷蔵は勘右衛門たちと話していた。


「っていうか、何で今日はそんなに凄いの?」
「べったりなのはいつものことだけど…」


勘右衛門と兵助の質問に、雷蔵はうーんと唸って、やがて口を開いた。


「今日が僕と三郎の、記念日だからかな」
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -