三郎さんが帰国するまで、後一ヶ月。
私は今まで以上に落ち着かない気持ちで毎日を過ごしている。
学校は、期末試験も終わって、試験休み。
卒業式が終わって、在校生は三月半ばの終業式に出た後は、春休みに入る。

ここのところの私は、休みだからと、毎日のように三郎さんのマンションを訪れていた。
既に三郎さんの匂いはしない家だけど、任されただけの仕事はしないと。
三郎さんがいつ帰ってきてもいいように、部屋の掃除とか…空気の入れ換えとか。
三郎さんを迎え入れる準備をしなくちゃいけない。
あと、春からは私も一緒に暮らすんだから、必要なものがあれば買ってこなきゃいけない。

とりあえず、掃除はここのところずっとしてたから、今日は必要なものが何なのか考えなきゃな――と家の鍵を開けた時、そこにはあるはずのないものがあった。


玄関に取り残された、一足の靴。
それが誰のものかだんて…考えなくてもわかった。


私は荒々しく靴を脱ぐと、荷物も放置して、家の中へと駆け込んだ。
そして、少し驚いたような――けれどすぐにくしゃりとその表情を崩し、破顔した三郎さんを見た時、私の目からはボロボロと涙が零れていた。


「っ、三郎さん…!」
「梅雨…っ」


どうして、なんて考えるのは二の次で。
私はただ、目の前にいる三郎さんを見つめて、言いようのない感情を胸に抱いた。
何も考えることなんか出来ず、勢い良く抱き着いて、抱きしめられて、名前を呼ばれる。

一年振りに触れた三郎さんの体温は、酷く心地が良かった。
ああ、三郎さんだ…!


「三郎さん…会いたかった、ずっと、ずっと…!」
「俺も、会いたくて仕方なかった」
「三郎さん…」
「なぁ、梅雨。もう一度聞くよ…

 俺と…結婚してくれるか?」


抱きしめられたまま、三郎さんは言った。
一年前とは違い、私の返事窺うような問い方。
何が不安なのかはわからないけど、私の答えなんてとうに決まっている。

私は顔を上げて、元気よく言った。


「はいっ!」


私を、幸せにして下さい。
三郎さんが。

くすりと笑って、おでこをくっつけ合った。
二人の唇が重なる。

長い長いキスの間…
私の左手薬指では、ダイヤモンドがきらりと輝いていた。



終着点で君に




「ねぇ三郎さん、予定では来月だって言ってたのに、どうして早く戻って来れたの?」
「早く帰ってきたかったから、仕事を無茶苦茶頑張った。で、荷物置いてから驚かせに行こうと思ったんだけど、その前に梅雨がうちに来てくれたから」
「そうだったんだ…ありがとう、三郎さん。そして、お疲れ様」
「ん…」
「私も、早く三郎さんに会えて嬉しかったよ…三郎さんに会って、色々話したいこととかあったし」
「俺も、梅雨に話したいことはあるな。まぁでも、」
「?」
「まずは、離れてた分の愛を確かめるとしよう」
「それって…んっ!」
「梅雨…愛してる」
「三郎さん…」
「もう絶対、離さないからな。次にどっか行く時は、嫌だって言っても連れてく」
「うん…連れてって」
「梅雨…」
「三郎さん…大好き、私も、愛してます」

Happy End!

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