年が明けました。 おめでとうございます。 さて、新年早々、私がしていることといえば…これ。 アルバム作り。 もうすぐ三郎さんが帰ってくると思うと、私はそわそわして落ち着かない。 どうせあと、3ヶ月は会えないってわかってるけど… 何かしていないと気が済まないのだ。 だから、三郎さんが帰ってきた時の為に、三郎さんがいない間の写真を整理することにした。 まずは時系列を合わせて、春から収めていく…と。 「あ、これ…婚姻届けを出しに行った時のだ」 一枚の写真を取って、私の顔はほころんだ。 確かお母さんが撮ってくれたんだっけ、自宅の前で。 あの時は緊張しちゃって、ずっと三郎さんの腕にしがみついてたなぁ… でも三郎さんはさすがに落ち着いてて、私は頬を膨らませたんだっけ。 そしたら、 『ばか。俺も緊張してんだよ』 って、少しだけ顔を赤くした三郎さんが呟いた。 あの三郎さんが緊張するなんてよっぽどのことだと思う。 でも、それを知って嬉しかったのも事実だ。 私だけが緊張してるんじゃないってわかって、何だか安心した。 私も三郎さんも、初めてのことだもん。 そう思ったら、三郎さんのいない写真を整理するのは嫌になって、私はもっと前の…三郎さんと恋人だった、1年の頃のアルバムを引っ張りだした。 パラパラとめくっていく。 それを見る度に、あぁ、私と三郎さんって随分一緒にいたんだなって、改めて思った。 映画とか食事とか、遊園地、動物園、夏には海に行って… 毎回凄く楽しかった。 三郎さんは、私のことをとても大切にしてくれる。 だから、私につまんないと思わせないように、色々と気を使ってくれたんだ。 離れてからそれが凄く、身に染みた… 三郎さん元気かな。 あっちで写真撮ってるのかな? そんなことを思いながらアルバムをめくっていると、部屋にお母さんがやってきた。 「あらあら、梅雨ったら…懐かしいものを引っ張り出してるのね」 「写真を整理しようと思ったんだけど、そしたら前のも見たくなっちゃって…」 「その気持ちわかるわ。お母さんも、お父さんと旅行に行く度にうんと写真を撮るから、その時の思い出が…」 「えっと、お母さんはお父さんとの思い出を語りに来たの?」 「あら、そうじゃないけど。少しくらい聞いてくれたっていいじゃない?」 「お母さんの少しは2時間単位なんだもん…」 思い出話なら、今までに沢山聞いた。 正直もう聞きたくない。 そんな思いが顔に出たのか、お母さんは笑って、「そうそう」と話を変えた。 「さっき、お父さんが新年のお祝いパーティーから帰って来たんだけど、その時に雷蔵くんをお持ち帰りしちゃったみたいなのよ」 「雷蔵くん?」 「あら、梅雨知り合いじゃないの?彼、去年のパーティーで梅雨に会ったって言ってたんだけど」 「雷蔵くんて…もしかして不破さんのこと?」 「そうそう。彼、お父さんの会社のお得意様なのよね」 お母さんは若い男の人にはみんな名前に‘くん’を付けるからわかんなくて困る… 私は記憶の棚を引っ張り出して、パーティーのあった夜のことを思い出した。 そうだ、不破さんといえばあの夜、お金を持っていない私にカードでお土産を買ってくれた。 そして三郎さんの従兄弟で、三郎さんによく似ている…あの人だ。 「思い出した。でも、何でその不破さんがうちに?お父さんに持ち帰りされちゃったって…」 不思議に思って聞くと、お母さんは苦笑して答えてくれた。 「それがね、お父さんパーティーで随分とお酒を飲んできちゃったみたいで」 「えぇー…まさか」 「梅雨が思っている通りよ。完全に酔いが回っちゃったお父さんの面倒をみてくれたのが、雷蔵くんだったの」 「やっぱり…」 「そのまま帰すのも悪いから、少しお話を…と思ったんだけど、どうせなら年が近い梅雨の方がいいかしらと思って。お母さんじゃきっと話も合わないだろうし」 「それで、呼びに来たってこと?」 「そういうこと。偶然にも、雷蔵くんと梅雨は面識もあるから、ちょうどいいわね」 「でも、会ったのも1回だけなのに…」 そう言葉を発した時、廊下からお父さんが呼ぶ声がした。 お母さんをしきりに呼んでいる。 ああ、これは相当酔ってるんだ… 「まぁ、あの人ったら…。そういう訳だから、梅雨は雷蔵くんのことよろしくね?」 「うん、わかった」 「そんなに長い間相手にしなくてもいいから、頼んだわよ」 お父さんに呼ばれたお母さんが部屋を出て行き、私は客間へと向かった。 どうしよう…会ったら何話せばいいのかな。 お母さんよりは年が近いって言っても、多分6〜7歳は違うだろうし、どうしたら… うーん… とりあえず入ってしまおう、と開けたドアの向こうには、ソファに座っている不破さんがいた。 今日もスーツを着てる。 パーティーだったもんね、当たり前か… 私が姿を現すと、不破さんはきょとんとした後、すぐに笑顔を見せてくれた。 やっぱり、三郎さんにそっくりだ。 「こんにちは、不破さん」 「こんにちは、梅雨ちゃん。久しぶりだね」 「はい。…今日は父が不破さんに面倒をかけたみたいで、すみません」 「気にしなくていいよ。僕も退屈なパーティーから抜け出す、いい口実になったし」 「不破さんはお酒飲まないんですか?」 「うん、僕はそんなにね。三郎は結構飲んだりするけど」 その言葉に、私は目を丸くした。 三郎さんがお酒を飲む? そんなこと、ほとんど見たことがなかったのに…本当はお酒好きってこと? そんな私を見て、不破さんはくすっと笑った。 「やっぱり、三郎のこと良く知っているみたいだね」 「え?」 「三郎の名前を出した途端、表情が柔らかくなった」 「そう…ですか?」 「うん。でもね、変な事言うようだけど、三郎には気をつけて。あいつ酒飲み出したら素が出るし」 「私は三郎さんがお酒を飲んでるところはあんまり見たことがないんですけど…」 「まぁ、梅雨ちゃんの前ではそうかもね。梅雨ちゃんは未成年だし」 「私が大人になったら、皆さん…三郎さんもお酒を飲むのかな」 「可能性はあるよ」 じゃぁ、そしたら三郎さんは私に気兼ねなくお酒を飲めるようになるんだ。 思えば、デートは車で移動することが多かった。 私が未成年じゃなくても、運転する以上三郎さんは飲酒なんてしないだろう。 そう思うと、何だか申し訳なく思った。 三郎さん、お酒好きなら飲んで良かったのに… 外食じゃなくて、家の中で二人で何か作っても良かったんだから。 私の表情が曇ったことに気付いた不破さんが、優しい声で「大丈夫だよ」と言った。 「梅雨ちゃんはご両親の仕事にはあまり顔を出さないんだろ?そういう機会がなければ、三郎と会うことだってまずないだろうし」 残念ながら、三郎さんとはこれから毎日顔を合わせることになります。 だって、私たち結婚してるから…とは言えない。 「それに…」 と、不破さんは私の手元にちらりと視線を寄越した。 何だろう?と思って私も見るけど、何の変哲もない。 「今日は指輪をしてないみたいだね」と、不破さんが言った。 「前に会った時は左手の薬指にしてあったから、多分そういう人がいるんだろうなって推測したんだけど」 「あ…えと、付けるのは外出する時だけで…」 「あぁそっか。でも、いるんだね。梅雨ちゃんの大切な人」 不破さんはにこにこと笑って言った。 う……まぁ、その通りなんだけど。 不破さんはまさか、私の好きな人が三郎さんだとは思ってないはず… 何だか変な感じ。 私は赤くなった顔を隠すように、少し俯いた。 「あの、まだ詳しいことは言えなくて…」 「大丈夫だよ。事情は察するから」 「ありがとうございます」 「でも、決まった相手がいるってことは、梅雨ちゃんもその内お嫁に行っちゃうってことだよね。僕にはまだそういう人がいないから、梅雨ちゃんの相手が羨ましいや」 「そう…ですか?」 「うん。だって梅雨ちゃんみたいな可愛い子がお嫁さんだったら、僕なら歓迎するよ」 「またまた…」 「本当だって」 不破さんの言葉に私は益々顔を赤くする。 三郎さんに似た顔で、そんな風に言うんだもん… 照れない方がおかしい。 「ね。梅雨ちゃんの恋人がどういう人か、聞いてもいいかな」 「え…でも、」 「大丈夫。ただの興味本位だから、口外はしないよ」 不破さんはそう言って、手をパタパタと振った。 なんか、不破さんて優しいけど、思ったことをズバズバ言う人なのかな。 何だかんだ言って、ペースに飲まれている気がする。 私は「誰にも言わないなら…」と前置きをして、三郎さんの事を語った。 優しくて、器用で、何でもこなしてしまって、いつでも一番に私の事を考えてくれて… 怒るときはあるけど、それも全部私を想ってのことだから、全然嫌じゃないし、基本的には私が何を言っても聞いてくれる。 三郎さんは、本当に私を大切にしてくれる、私が大好きな人だ。 つらつらとそんな言葉が出てきて、言い終わった時には不破さんの顔も赤くなっていた。 「まいったなぁ…(三郎に気がないことを確かめようと思って聞いたのに、)梅雨ちゃんの恋人は、本当に素晴らしい人なんだね」 「はい…」 「(これじゃ三郎に付け入る隙がないどころか、梅雨ちゃんは恋人しか見えていない)そんな人に出会えて良かったね。幸せにしてもらうんだよ」 「はい…彼も、そう約束してくれました」 だから私は三郎さんを待っている。 三郎さんに、幸せにしてもらうために… 三郎さんと一緒に幸せを築き上げていくために。 夫婦って、そういうものだと思うから。 だから三郎さん。 早く迎えに来てね。 一番初めに触れるモノ |