体育祭が終わって、10月も半ばに入れば、待ってました。修学旅行!

私は仲のいいクラスメイトと外泊できることが嬉しくて、今日という日を楽しみにしていた。
同じ班の子たちと始終喋ってて、移動中も「あれ何?」「これお土産にいいんじゃない?」とか、とにかくいっぱい…!
想像以上のハードスケジュールに結構疲れたけど、修学旅行の楽しみと言ったら、布団に入ってからが本番。
まだまだ、眠りたくなんてない!


「あれ?伊織は?」
「彼氏んとこ行ってる」
「そっか…!隣のクラスだもんね」
「それより、修学旅行の夜と言ったら、やっぱ恋ばなじゃない?」
「みんな好きな人いないの?」


きゃいきゃい、と揃って話し合う。
やっぱり、女の子同士の話って面白い。
恋ばなはいつでもできるけど、不思議なことに、修学旅行だと普段引っ込み思案な子も話に参加してくれるから、自然と仲が深まる。
私はみんなの話を聞いて、なるほどそうなのか、と情報を得ていると、隣にいた子がこっちを向いた。


「っていうか私、梅雨の話聞きたいんだけど」

「えっ、私?」

「あ、それ私も思ってた!」
「聞きたい聞きたーい!」
「教えて?」

「でも、特に話すようなことなんて…三郎さん、今海外にいるし」

「別に今のことじゃなくてもいいよ。馴れ初めとかさ」
「そうそう、どこで知り合ったの?」
「プロポーズの言葉は?」

「えっと…」


いつの間にか、恋ばなから私と三郎さんの話になってしまった。
回避したいけど、できないだろうなぁ…嫌でも喋らされそう。

私は少し恥ずかしい思いをしながら、ゆっくりと三郎さんとの思い出を語っていった。


「んと、三郎さんは元々、私の家庭教師でね…」
「家庭教師?」
「そう。お父さんの知り合いの息子さんなんだけど、私、中学の頃あまりに成績が酷くてさぁ…見兼ねたお母さんが、三郎さんに家庭教師のアルバイトを頼んじゃったの。三郎さんは大学四年生で、就職が決まってたから、いいですよって…ほんとに軽い気持ちで引き受けたんだと思う」
「それ、梅雨が何年生の時?」
「3年。だから、受験も控えてて…ほんとに勉強しなくちゃいけなくて、三郎さんに勉強をみてもらうことになったの。でも…」


私は一旦話を切り、当時のことを思い出す。
三郎さん、凄くびっくりしてたなぁ…私の成績みて。
お前、この成績で高校行く気あんのか、なんて最初の1時間でお説教されたっけ。
お父さんにもそこまで怒られたことがなかったから、正直最初は三郎さんのことをあまり好きにはなれなかった。


「私は物覚えが悪いって、何度も怒られたよ。だけど、三郎さんは諦めないで、頭の悪い私にも一生懸命勉強を教えてくれたの。最初は週2だった家庭教師も、週5に増えて、気付けば毎日のように三郎さんと会ってた。勉強に関しては厳しかったけど、教え方も上手かったし…時々、生き抜きにも連れてってくれたんだ」


例えばどこに?と聞かれて、近くの公園とか…ドライブとか、って答えた。
三郎さんは車でうちに来てたから、隣に乗せてくれることがたまにあった。


「で、三郎さんのお陰で何とか高校にも合格することができて…その時には苦手意識なんてなくて、普通に接してられたんだけど」
「けど?」
「高校に入ったら、あんまり会わなくなっちゃったんだよね。三郎さんは社会人になっちゃったし、私も家庭教師必要なくなっちゃったから」
「あー、そりゃ仕方ないね」
「で、そこからどうやって結婚にまで至ったの?」
「うん。高校入ってからちょっとしてね、三郎さんが久しぶりに会わないかって連絡くれたの。それで一緒にご飯食べて、またドライブしてたら…好きだって言われたの。それから、私は三郎さんと付き合うようになった」


これが私と三郎さんの馴れ初め。
そう言うと、友達はみんな顔を赤くして、そっかぁ…なんて照れていた。


「羨ましいな、そんな素敵な人と出会えて」
「ドライブとか、年上の人と付き合わないと無理だよね」
「私もそんな恋愛がしたーい」


と、各々が好き勝手に言ってる。
その後の結婚に至るまでの話は、既にみんなにはやんわりと話してあった。
三郎さんが海外に行ってることも知ってるから、私が寂しくないようにと遊びにも誘ってくれる。
みんな、いい友達だ。


「ほんと、梅雨はいい旦那さん捕まえたねぇ…」
「うんうん。ドジな梅雨の面倒を見てくれるしっかり者さんみたいじゃん」
「早く会えるといいね」
「うん…!」


私は元気よく返事をして笑った。

本当だよ。
三郎さんはとても素敵な旦那様。
世界で1番大好きな人。
早く、早く会いたいなぁ…

だから今日も私は、三郎さんを想って眠る。
夢の中でいいから、会えますように…と祈りながら。

あ、でも今夜はもう少し起きてようかな…特別な夜だもん!
私は嬉しくて、ふふっと笑いを零した。



5gのと僅かな可能性

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