長いようで短い夏休みが終わって、私の学校は2学期に入った。
それまでのダラけていた毎日と違い、2学期は色々と忙しい。
まず、休み明けテストがあるでしょ。
宿題を提出したら、今後の予定について先生からお話があったんだけど…
体育祭、文化祭、修学旅行なんかがいっぺんにあって、テストもいつも通りあるから、大変なんだと。

これ、一つくらい1学期にずらせなかったのかな?
修学旅行があるのは私たち2年生だけだけど、帰って来て早々にテストだなんて嫌だよう。
みんな、文句を言ってたけどそれで何とかなる訳でもなくて、結局私たちは強行スケジュールを組まされることになった。
ま、去年の2年生もおんなじスケジュールだったしね…なんとかなるかな。

なんて、考えてたら。


『いいか梅雨、接客や客引きはなるべく控えろ。裏方に徹しろ。だが男とは一緒にいるな』
「う、うん…」
『間違ってもアドレスを交換するんじゃないぞ?盗撮にも気を付けろ。それから、移動中は必ず女友達と行動して…』
「ねぇ、三郎さん」
『いいか?梅雨に何かあってからじゃ遅いからな?頼むから俺の心配事を増やさないでくれ…気が気じゃないんだ。それから…』


文化祭で私のクラスが模擬店をやることになった、と伝えたところ、三郎さんは予想以上に焦って、そんな事を言っていた。
私が、男の子と仲良くなるのが心配みたい。
そんなことないのにね…クラスメイトは全員、私が結婚したことを知ってるんだから。

私がそう言ったら、三郎さんは


『それが油断なんだ。いいか、文化祭マジックは強力なんだ!絶対に気を抜くなよ!?』
「う、うん…」
『あと、それと同じくらい修学旅行マジックも凄いからな!絶対に一人になるな!』


三郎さんは必死になって私を説得した。

まぁ、三郎さんの考えは多少大袈裟かもしれないけど、私も三郎さんの気持ちがわかるから、ちゃんと「うん」って返事をした。
私も、三郎さんが女の人と仲良くなるのは嫌だ。
相手が例え、お仕事関係でもあまりいい気はしない。
だって、私三郎さんのお嫁さんだし。

だから、三郎さんと離れている間、私は三郎さんの言うことをちゃんと聞いていようと思う。
会えないのは寂しいけど…私には三郎さんが送ってくれた、クマのぬいぐるみの『さぶちゃん』がいるし。
私、頑張るよ。

そう、意気込んでいた訳だけど…。




「梅雨っ、3番テーブルの注文できた!?」
「う、うん!今出来るとこ…!」
「じゃぁすぐにそれ持って行って!私注文取ってくるから!」
「わかった…!」
「蛙吹…じゃなかった、鉢屋!こっちも頼む!」
「待って、今行く…!」


模擬店なんてものは意外とハードで、それぞれの役割は決まっていても、状況次第で色々なことをやらなきゃいけない。
だから、裏方ってことになっていた私も、たまに接客なんかをやらされる。
他の子たちに比べたらマシだけどね…あんなメイド服着ないで済むし。
一応、女子は全員分作ってあるけど、あんな格好じゃ調理しにくいんだもん。

1時を回って、ようやく人の波も落ち着いてきた頃、私は他の子と交代した。
着替えてくる、と言って一般の人が入れない空き教室に入った友人を外で待っていると、声をかけられた。


「あ、蛙吹さん」
「…鈴木くん?」


彼は1年の時同じクラスだった鈴木くん。
鈴木くんは私の姿を見つけると、笑顔で手を振ってくれた。


「休憩中?」
「うん」
「さっき、蛙吹さんのクラス見て来たよ。凄い人気だね」
「みんな頑張ってくれてるから。あと、やっぱりメイド服も好調だったみたいで」
「だね。有名になってるよ」
「ほんとに?」


鈴木くんは気さくで、とても話しやすい。
さっき私のクラスにも顔を出してくれたと言ってたけど、目当ての子でもいたのかな。
それなら私、応援してあげよう。


「蛙吹さんはさ」


うん?と聞き返す。


「着ないの?あれ」
「私は裏方だからねー、着てると動きにくくて」
「あぁなるほど」
「一応、作ってはあるんだけど、家に置いてあるんだ」
「そっかぁ…それは残念だったな」
「残念?」
「俺、蛙吹さんがメイド服着たとこ「お待たせー!」


ガラリ、と音を立てて友人が出て来た。


「あ、友達いたんだね…」


と鈴木くんが少し驚いた様子で言うと、友人は「いちゃ悪かった?」とわざとらしく聞くから、鈴木くんは何も言えずに苦笑した。


「時間あんまりないからね、梅雨早く回ろう?」
「そうだね」
「あと、鈴木」
「何だい?」
「梅雨の名字は鉢屋だから、間違えないで」
「鉢屋…あれ、変わったの?」
「うん、ちょっとね」
「じゃ、もういいでしょ?行きましょ、梅雨」


ぐい、と腕を引かれて私は鈴木くんから離れた。
ちょっと強引な友人の態度に驚きつつ、そのまま着いて行こうとすると…


「待って!蛙吹…鉢屋さん、俺とアドレス交換してくれない?」


鈴木くんが携帯を出して言ったので、振り向いた私は笑顔で答えた。


「ごめん、男の子とアドレスは交換するなって言われてるの」
「だ、誰に!?」

「私の旦那様」


え、と渇いた声が鈴木くんの口から漏れる。
その姿を尻目に、今度こそ私は友人の隣に並んだ。
しばらく歩くと、彼女は怪訝そうな顔で私に言う。


「梅雨、名字変わったこと何でちゃんと言わなかったのよ」
「だって、説明するのも面倒臭かったし。先生によっては、未だに蛙吹って呼ばれたりするよ」
「先生は、梅雨が結婚したことを知ってるからいいけどさ…」


じゃぁ何?と聞き返せば、友人は口をもごもごとさせただけで結局何も言わなかった。
小さなため息を一つついて、ま、いっかなんて零した。


「それより、例のメイド服家にあるんでしょ?」
「うん」
「今夜、それ着て写メ送ってみなよ。きっと旦那さん喜ぶんじゃない?」
「うーん、どうだろう。三郎さん仕事中だろうしなぁ…」
「ま、悪くはないと思うんだ。色々とね」
「?わかった」


友人の言葉を鵜呑みにした私は、さっそく夜に家でメイド服を着て、三郎さんに写メを送ってみた。
可愛いって言ってもらえるかなぁ。
頑張ったなって褒めてくれるかなぁ。

私がそんなことを思っている間に、三郎さんが別の意味で全然仕事にならなかったことは、私には知る由もなかった。



満月を怖れぬ者達の



「なっ…!(梅雨、なんつー格好を…あぁもうこんなん見せられて、仕事にならねーよ!!!)」

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