今日はお母さんに連れられて、地元の公民館にやってきた。 何しに来たの、と聞けば帰ってきた答えは「七夕だからよ」で、七夕だから何で公民館?よくわかんないという顔を私はした。 「自治会のイベントで、地元の子供たちとの交流をするのよ」 「あぁ、そういうことなんだ」 「梅雨はそのお手伝い。いいでしょ?暇なんだし」 そう言われてしまったら、私は何も言えない。 学校は期末テストが終わったばかりで、テスト休みに入っていた。 前回、中間テストの時には散々な目にあった私だけど、今回は大丈夫だと思う。 三郎さんに心配かけないようにって、頑張ったから。 でも、暇だったから連れてきたって、理由はそれだけ? 聞くと、お母さんはふわりと笑った。 「それだけじゃないわ。梅雨と親子で過ごせるのも、残り僅かだろうから。少しでも梅雨との思い出を作りたかったのよ」 「お母さん…!」 お母さんなりの考えを知って、抱き着いた。 ありがとうお母さん。 私もお母さんとの時間を大事にするよ…! 「おや、蛙吹さん。こんにちは。今日は娘さんと一緒に?」 「えぇそうなんですよ。娘の梅雨です」 「あ…初めまして、蛙吹…いえ、鉢屋梅雨です」 「どうもこんにちは。自治会長を務めさせてもらっている者です」 折り紙でわっかを作って繋げていたら、知らない男の人がきてお母さんに話し掛けていた。 お母さんは、私の知らないところで実は色々やってるらしいから、顔が広いみたい。 今日も色んな人に話し掛けられて、その度に挨拶をしていた。 「鉢屋…?蛙吹さんとは名字が違うようですが…」 自治会長さんは、私とお母さんのネームプレートを見て首をかしげていた。 最初は、私も蛙吹って名乗ろうとしたけど、子供たちもいるからって配られたネームプレートには、鉢屋って書いちゃったから。 今更蛙吹梅雨ですって言うのは、おかしいかなって思った。 「えぇ、実は娘は先日結婚しまして…」 「おや、そうでしたか!いやでも随分とお早い結婚ですなぁ」 「あちらの意向もありましてね。でも相手の方が日本にはいなくて、梅雨とはまだ一緒に暮らしているんですよ」 「そうですかぁ…いやいや、おめでとうございます」 自治会長さんは、にこにことして私におめでとうと言ってくれた。 私はちょっと照れ臭かったけど、ちゃんとありがとうございますって返した。 知らない人にそんなことを言われると、緊張してしまう。 それから私はお母さんと離れて、子供たちの面倒を見ることになった。 短冊に、お願いごとを書くんだよって教えてたら、一人の子が言った。 「おねぇちゃんは、なんておねがいしたの?」 「私?私はまだ書いてないなー」 「じゃぁいっしょにかこうよ!おりひめさまと、ひこぼしさまにねがいごとかなえてもらうの」 「そうだね。でもいいのかな…私も書いちゃって」 「はい、これおねえちゃんのぶん!いっしょにおねがいしようね!」 自分より年下の子にそう言われちゃ断れない。 私はペンを握って、お願いごとを考えた。 お願いごと、かぁ… 私が考える願いなんて、一つしかないんだけど。 しかも七夕でするお願いでしょ? やっぱり、これしかない。 私は、ピンクの短冊に自分の願いを書いた。 「‘早く三郎さんと、会えますように’…っと、できた」 まるで子供のような発想だけど、いっか。 1年に1回しか会えない二人に、私と三郎さんのことをお願いするなんて、ロマンチックじゃない? なんて… 「おねぇちゃん、このひとだぁれ?」 隣の子が私の短冊を覗いて来て聞いた。 「えっとね、三郎さんは私の好きな人だよ。今は遠いところにいて会えないの」 「そうなの?かわいそう…」 「うん。でも、1年我慢したら会えるから…ずっと待ってるんだ」 「じゃぁ、おりひめさまとひこぼしさまとおなじなんだね!」 「そうだね…だからちょっぴり、嬉しいな。えへへ」 子供相手なのに、私はふにゃりと笑ってしまって、心まで子供に戻った気になった。 子供たちの短冊を集めて、笹の葉にくくりつける。 私のは、人に見られたら恥ずかしいから、なるべく目立たないところに。 でも、お母さんにはすぐに見つかってしまった。 「あらあら、やっぱり梅雨は、どこにいても三郎くんのことが一番なのね」 「お母さ…っ!」 「いいのよ、梅雨が幸せなら、それがお母さんの幸せだもの」 ね?と言って笑ったお母さんを見て、私はお母さんって強いんだなぁと思った。 でもちょっとだけ、寂しかったから、今日はいっぱい甘えることにする。 織り姫と彦星も、夜空で会えるといいな! その日の夜、三郎さんから手紙が届いて、私の心はまるで織り姫のようだった。 ミルキーウェイを突走れ |