「全く…お前たちはまだ子どもだな」
「子どもって…」
「藤内。私たちの目から蛙吹の存在を隠したかったんだろうが、それではバレバレだ」
「!」
「やっぱり藤内は…」

私のこと、言いたくなかったんだ…。

「え? 多子先輩、綾部先輩の彼女じゃないんですか?」

一年生が首を傾げて私の方を見る。
私はふるふると首を横に振った。

「私は…綾部先輩と付き合ってないよ」

それに、多子って名前じゃないから。
言ったら、一年生たちは目を丸くしていた。
藤内の顔は見えないけど、しかめているに違いない。
隣にある気配がピリピリと張っていて、重い。

「じゃぁ、梅雨先輩は、誰の恋人…?」

そんな言葉が飛び交って、私はびくりと肩を震わせた。
盗み見るようにして藤内の方を窺う。
藤内は……もの凄く顔を赤くして、拳をきゅっと握っていた。
何故か、耳まで赤い。

「え…?」

どうして、そんな顔するの…?

「どうした? 藤内、何やら言いたいことがありそうな顔をしているな」
「たっ立花先輩!」
「うん? よもやこの私を騙せると思ってはいるまい」
「っ…!」

藤内と立花先輩の間に、妙な空気が漂う。
綾部先輩は素知らぬ顔をしてさっきから踏み鋤の泥を落としているし、一年生は首を傾げて二人を見ているし、私も交互に顔を見比べる。
藤内は俯いたと思ったら、やがて小さな声を出して言った。

「梅雨は……僕の、恋人です…」
「藤内っ?」
「ふふん」

私は藤内の言葉に驚いて声を荒げてしまった。
どうして、私のことを恋人だって紹介するの?
嫌なら、黙っていればいいのに。
それか、同郷だって説明すれば、きっと隠し通せるはず…

「やっと言ったか」
「立花先輩は…性格が悪いです」

藤内がはぁっと息を吐いた。

「ねぇ…どういうことなの? 藤内、私のこと隠しておきたかったんじゃない?」

訳がわからずそう聞けば、藤内は目をそらしたまま、そうだけど…と呟いた。

「藤内が蛙吹のことを隠したかった理由は、蛙吹が想像しているのとは少し違うな」
「違う理由…?」
「…よし、今日はもういいだろう。委員会は解散だ。皆、帰っていいぞ」
「えっ?」
「その代わり藤内、次の委員会ではじっくり今日の話を聞かせてもらうからな。逃亡は許さんぞ」
「〜〜〜っ、はい…」
「では」

立花先輩の掛け声で、委員会のメンバーはさっさと作法室から出て行ってしまった。
残されたのは私と藤内だけ。
だけど藤内は中々動こうとせず、ずっと黙っていたので、私もどうしていいかわからない。
少しだけ待って、疑問を口にしてみた。

「ねぇ藤内……立花先輩が言ってたのって、どういう意味?」
「…そのままだよ」

意外にも藤内はちゃんと答えてくれる。

「そのままって?」
「俺が、梅雨のことを周りから隠したかったってこと…」
「…私みたいなのが彼女だって、知られたくなかったんでしょ?」
「ちがうっ!!」
「っえ?」
「違うよ、そうじゃない……俺は、もし梅雨が彼女だってことが先輩たちにバレたら、梅雨が大変だから…そう思って、」
「何で? いい先輩たちじゃない」
「そうだけど…梅雨は立花先輩や綾部先輩の恐ろしさを知らないんだよ」

はぁ、と藤内はまた深い息を吐いた。
立花先輩が恐ろしいって……まぁ確かに、あの先輩は成績優秀だし、火薬にかけては学園一とも噂されるくらいだから、実力では絶対に敵わないけど。
でも、タコ壺に落ちて怪我をした私を手当てしに、作法室に連れてきてくれた綾部先輩だって、本当は優しいのかもしれない。
それなのに、怖いって?

「正直言うと…梅雨よりも俺の方が大変なんだけど」
「ん?」
「多分これから、何かある度に梅雨の名前を出されて、先輩が卒業するまできっと弄られ続けるんだ…」
「藤内が?」
「そう」
「具体的には?」
「言いたくないことまで、喋らされたり…」
「それってどんな…」
「…こういうことだよ」

ぐい、と藤内の腕が私の腕を掴んで、引き寄せた。
私の体は藤内にぴったりと密着し、抱きしめられる。
伝わってくる人の体温に、私はばくばくと心臓が高鳴って、うろたえた。

「と、藤内…!?」

慌てて離れようとしても、藤内は離してくれなかった。

「こんなふうに…梅雨との間にあったこと、後で全部吐かされる」
「えぇぇぇぇ! それはやだよさすがに!!」
「だから俺は、梅雨のことを先輩たちにバレたくなかったんだよ…」
「…じゃぁ、私が思ってた理由とは、違うってこと?」
「最初からそうだって言ってる」

なんだ…じゃぁ私の思い違いだったんだ。
藤内は、私の存在が恥ずかしいから、言いたくないってことじゃなかったんだ。
むしろ、私が嫌な思いをしないように、ずっと守っててくれたんだ…

「藤内…」
「…それに、どっちかって言うと、先輩たちのことがなければ、本当はちゃんと梅雨が俺の彼女だって、他の奴らには言っておきたかった」
「え?」
「だって……他の男に言いよられたら、嫌だし」

まぁでも、これでその心配はなくなったけど。
だからって、いきなりベタベタする訳じゃないからな。
と、藤内は優しい表情で私の頭を撫でながら、ふわりと言った。

「藤内…疑ったりして、ごめんね。私、藤内のこと凄く好き」
「俺だって、」
「ね、後で数馬とかにちゃんと報告しに行こ? 数馬、きっと凄く驚くよ」
「そうだね……でもその前に、あと少しだけこのままでいさせてよ」
「うん…」
「…やっぱり、可愛い…梅雨」
「ん?」
「敵わないって思っただけだよ」

ちゅっと藤内の唇がおでこに落とされて、私はえへへと笑った。

私の前で気を緩ませた藤内の表情が一番好きだ。
私だけは特別って思ってくれてるから。
これからは二人の時間がもっと増えるといいね。

「…ところで、何で綾部先輩の彼女ってことになってたの?」

少しだけ嫉妬した顔も、大好き!


本音を晒して



ゆずさんへ!
遅くなりましたが、相互記念です^^
初挑戦の藤内どうだったでしょうか;
これからも仲良くして下さいね☆

みどりーぬ
2010/08/16


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