お昼を少し過ぎた頃だった。門を叩く音がして出迎えれば、そこにいたのは山田先生の息子の、利吉さんだった。 「こんにちはぁ」 「…どうも」 「山田先生なら、ちょうどお昼を召し上がれていると思いますよぉ」 「そうか…ありがとう」 利吉さんは入門表にサインをすると、さっさと食堂に向かって行った。僕もそろそろ、お昼食べに行こうかなぁ。今日のメニューは何だろう。あ、梅雨さんはもう行っちゃったのかな? 考えながら歩いていたら、吉野先生に捕まっちゃって「小松田くん。今からお昼ですか?なら私も一緒に行きましょう」なんて言うから、僕は好きでもない吉野先生と御膳を並べることになっちゃった。まさか食事中まで怒られたりはしないよねぇ… 「あれ?」 食堂に入ると、中はそれなりに混んでいたんだけど、その中に梅雨さんの姿を見付けて嬉しくなる。だけど隣には利吉さんがいて、山田先生を交えて三人で楽しそうに話している。それを見て、僕は何だか凄くモヤモヤした気持ちになった。 梅雨さん笑ってるし。僕が来たことにも気付いていない… 「小松田くん、後ろが詰まってますよ。早く席に着いて下さい」 「………」 「小松田くん?!」 「あ、はぁい!」 吉野先生に怒られて、僕は慌てて開いている席につこうとした。だけどその時、立ち上がった生徒とぶつかってしまって、僕は派手にずっこける。 「え?うわぁぁぁ!」 ガシャン! 持っていた食器が壊れ、中身があちこちに…主に僕の頭に降り懸かる。みんなが一斉に僕のことを見ているのがわかった。 「いった〜い…」 「うぅ…」 「だ、大丈夫か?伊作に小松田さん…」 「留三郎〜」 どうやら僕がぶつかったのは、保健委員長の善法寺くんだったらしい。周りから「不運だ」とひそひそ囁かれているのが聞こえる。 僕たちは互いに謝って、僕がダメにしたおばちゃんの料理を片付け始めた。と、その時に。 「二人とも大丈夫?」 利吉さんと一緒にご飯を食べていた梅雨さんが、ほうきとちりとりをもって手伝いにきてくれた。さすが梅雨さん…凄く助かるよ。だけどあの場面を見られちゃったんだよね…それは凄く、情けなかったな… 「あ、割れ物は危ないから…」 「私がやりますので、梅雨さんは割れ物を入れる桶を持ってきてくれませんか?できればあと、雑巾を」 「わかりました」 「………」 僕がやるよ、という言葉は目の前の利吉さんの声に遮られた。 利吉さん、いつもなら絶対にこんなことしないのに…梅雨さんが来たら、珍しく自分も手伝うと言ってきた。どういうつもりだろう。 「すみませぇん」 「全く…君は本当に学園のトラブルメーカーなんだね」 「そんなこと言わないで下さいよぉ。僕だって一生懸命なんですから…あっ、利吉さんはお客さんですし、もういいですよ!」 「一度手を出したことだ…最後まで面倒をみるよ」 利吉さんはそう言って、梅雨さんが持って来た桶に割れた食器を入れていく。梅雨さんはテキパキと利吉さんの指示に従って…何だか息が合ってるみたい。悔しいけど、利吉さんはカッコイイから、二人が並ぶと絵になっちゃうんだよな… 「小松田くん、片付け終わったわよ」 「あ、ありがとう!」 「それじゃ後は…小松田くんが頑張るのよ」 「頑張る?」 「一人分の食事を駄目にしちゃったんだもの…謝らなきゃいけない人がいるでしょ?」 「あ…!」 食堂のおばちゃん! 僕は途端に青ざめた。どうしよう…これ凄く怒られちゃうよ。その上今日一日はご飯出して貰えなさそうだし…ついてないなぁ。町に何か食べに行くしかないかな。 がっくりと肩を落としていると、梅雨さんは苦笑して「また後でね」と言って食堂から立ち去ってしまった。しかもこれから帰るという利吉さんとともに。その姿が小さくなっていく。 まるで恋人のような二人を見ていたくなくて、僕は目をそらした。 そして僕には…食堂のおばちゃんという最大の試練が待っていた。 翼が生えれば彼女の元に行けますか |