翌朝、俺は適当に時間を潰して自分の家に戻った。案の定勘ちゃんからは散々バカバカ言われて、正直梅雨に言われたよりも凹んだ…さすが親友、容赦はない。
駐車場にバイクを止めて玄関に向かう。鍵は開いてなかった。大方昨日俺が置いて行った予備を使って、梅雨が閉めたのだろう。その証拠に、テーブルの上に『鍵はポストに入れておきます。梅雨』というメモが置いてあって、それを見た俺は嘆息した。
それから鍵を取りに行く前に、まずは昨日雨で濡れた服を洗濯しようと思って、洗面所のドアを開けた時だ。
目の前に下着姿の梅雨が映って、俺は思考を停止した。

「……え?」
「っ、キャァァァァ!!」

バチン、と頬に衝撃が走って再び現れるドア。い、今梅雨が…
何で?家に帰ったんじゃなかったのか!?

「お、お前何で…!」
「ごめん、勝手にシャワー借りてた!」
「え?だって帰ったんじゃ…メモあったし、靴だって…」
「だから、シャワー浴びたらホントにすぐ帰るつもりだったの!靴は、雨で濡れたから洗って今乾かしてるとこ。サンダルだから、すぐに乾くわよ」
「そ、そうなのか…」
「…悪かったわね」
「いや、それは別にいいけど!」

いいけど…あんまりびっくりさせるなよ。俺の心臓が一瞬天国に向かうかと思った。
梅雨の下着姿を見れたのはラッキーだったかもしれないけど、あの仕打ちは痛い…後で頬が腫れそうだ。
俺は仕方なくその場に留まり、梅雨が出てくるのを待った。中から衣擦れの音が聞こえる…。

「………」
「………」
「………」

ダメだ、会話がない。やっぱりリビングで待っているかと踵を返そうとした頃、中から梅雨の声がした。

「あのさ…昨日のこと、まだ怒ってる?」
「…最初から怒ってなんかないよ」
「なら、このまま少し話聞いてくれる?」

布が擦れる音がピタリと聞こえなくなって、俺は梅雨の声に耳を傾けた。

「昨日はごめんね。色々酷いこと言って、兵助に八つ当たりした…」
「いや…俺の方こそ、ずっと黙ってた訳だし…」
「でもそれは、私のことを考えてくれたから、言えなかったんでしょ?…昨日、兵助がいなくなってから、色々考えたの」
「…何を?」
「私、今まで随分と兵助に甘えて振り回してきたなって。告白されてからずっとわかっててやったことだったけど、昨日やっと冷静になれたって言うか…私って、酷い女だなぁって思った」
「俺が好きで、やってたことだから」
「それでも、兵助の気持ちを利用してたことには変わらない。私やっぱり、最低な女だったんだよ。兵助の気持ちに付け込んで…いっぱいわがまま言った。兵助はいつ私が押しかけても文句言わなかったし、酔っ払ってても何もしないで介抱してくれたのに…ほんと今思うと酷すぎだったけど」

梅雨の声が段々小さくなる。俺が梅雨の願いを叶えていたせいで、梅雨は今良心をせめられていた。

「それで?」

だけど俺はその先を促した。

「それで…兵助がいないこの部屋って、随分と寂しいんだなって思った。あれだけ私の話を聞いてもらって、心を穏やかにさせてくれた部屋なのに、兵助がいないだけで…何だか物足りなかった」
「………」
「寂しくて…私、自分でも知らない内に兵助のことこんなに求めてたんだなぁって、後になってわかって」
「梅雨、それって…」
「ははっ…ホント、気付くの遅すぎだよね。私がつらい時にいつも側にいてくれたのは兵助であって、あの人じゃなかった。最後まで、あの人は来てくれなかったもの…」

梅雨の掠れた声が聞こえる。


「好き…兵助が好きなの……二番目なんかじゃない、兵助が一番…」


その声が聞こえた途端、俺はドアを全開にした。ドアにもたれ掛かっていた梅雨がバランスを崩して倒れかける。その体を俺は真正面から抱きしめて、梅雨を感じた。

「へ…すけ?」
「今の言葉、嘘じゃないよな?」
「う、うん…」
「俺、まだお前の側にいていいのか?」
「…兵助が、許してくれるなら」
「許すも何も俺は最初から、梅雨のことしか見えていないって言っただろ…ばか」

俺は梅雨を抱きしめる腕に力を込め、二度と離さないというように梅雨に縋った。

「梅雨…好きだ、」
「兵助は…こんなわがままで、都合のいい女でもいいの?」
「よくなかったら、抱きしめたりなんかしない」
「だけど…」
「もし今までのことを気にしてるんだったら、一つだけ俺のわがままを聞いてよ」
「何…?」
「今すぐに、俺の家に引っ越してきて」
「それって…」

言いかけた梅雨の口を俺のそれで塞ぐ。梅雨は抵抗しなかったけど、一瞬体が震えたから多分、梅雨の中にはまだあいつの残像が居座っているのだろう。はっきりと口には出さないけど、それくらいはわかった。そして梅雨に嫌われたくない俺は、これ以上先にはまだ進めない。
卑怯なんて言われてもいい。外堀から埋めていってやる。

「家、大学から遠いんだろ」
「うん…」
「会えない時間が嫌だし、だったらこっちで一緒に暮らした方が便利だ」
「…うん…」
「いつかあいつ以上に、お前のこと笑わせてやるから。だから、俺の気持ちに応えてくれるなら、俺のわがままを聞いてくれないか?」
「……う、ん」
「…ありがとう」

俺はホッとして、少しだけ腕の力を緩めた。
梅雨が言った言葉はまだ本心じゃないってわかってるんだ。俺は所詮梅雨にとっての逃げ道、永遠に二番目でしかない。それでも側にいさせてくれるなら、俺は何だってするよ。梅雨が例え俺を見ていなくても。



雨が降るとあの日を思い出す。
あいつが来るのを信じて、一人待ち続けている梅雨。あいつはさっき、他の女とホテルに入ったばかりだというのに。梅雨はずっとそこで待ち続けていた。

「もういいんだ、帰ろう」

一言俺がそう言ってやれば、梅雨はこんなに苦しまなくて済んだのだろうか。俺という厄介な相手にも捕まらず、いつか再び恋をして、自然と幸せになって。俺でもあいつでもない男と。

だけど俺はどうしようもない弱虫だから、そんな未来を認めたくなくて、自分の気持ちを貫き通した。それを今になってもずっと、俺は後悔していた。


二番目



カンリへ(´∀`)
相互記念の現パロ久々知を届けまつ☆
お、俺の嫁を…!(プルプル)
これからも仲良くしてくれー!
よろしくぅぅ!!

みどりぬ
2010/08/03


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