それから俺は度々梅雨に呼び出されるようになった。かと思えば、どたキャンだってしばしば。
梅雨はあいつがいない時、何でもない時に俺を呼ぶ。どこかに出掛けたいだとか、何を食べたい、映画を見たい…欲求は尽きることがなかった。俺はそれらの願いをほとんど叶えてきたし、この先も叶えてやりたい。例え呼び出した用事が、あいつへのプレゼントを選びたいという理由だって、構わないんだ。あいつへの贈り物を選んでいる時の梅雨の顔ほど、幸せそうなものはないから。
俺はあいつがしてやれないことを沢山してやった。飲み過ぎて歩けなくなったと聞けば駅まで行って梅雨を引き取ったし、本位じゃないだろうから手も出さなかった。ただ梅雨が望むままに言うことを聞いて梅雨の願いを叶える、俺は梅雨の魔法使いだ。

「へーすけー…あっつーい」
「今クーラーかけてる。ほら、水」
「ありがと…んっ」

震える指先で流し込んだ水が、飲み切れずに顎を伝うのを見て、欲情しない訳じゃない。だけど梅雨は今相当酔っていて、きっと記憶もあやふや。二番というポジションにはいさせてもらってるけど、あいつ以外の男には触られたくないはずだ。

「…あいつはどうしたんだよ。迎えに来てくれなかったのか?」

空になったコップを下げながら、梅雨の乱れた髪を直してやる。

「電話は…したよー……だけど今、友達きてるって…」
「ふうん」
「お前は一人で、帰れってさー…タクシーでも何でも捕まえて、って…」

言いながら梅雨は眠ってしまったようだ。俺は梅雨がベッドから落ちないように居住まいを正してやり、彼女のポーチからメイク落としシートを取って、眠る梅雨の顔を綺麗に拭いてやる。メイクを取らずに朝を迎えると最悪だって言ってたんだよな…。酒に弱い梅雨は、度々そういうことがあるらしい。もう少し控えればいいのに。
それにしてもあいつに友達、ねぇ…。

梅雨を寝室に寝かたせた俺はリビングの床に毛布を敷き、そこに丸まって眠る。好きな女の子と一緒の部屋にいて、何もしないという保障はない。我慢はするけど単に俺がつらいだけだ。
二部屋でクーラーを稼動するのは経済的じゃないから、リビングは窓を開けるだけ。生温い空気がもやっと入ってきて体に纏わり付く。今夜も熱帯夜か。ついてない。
俺はそのまま堪えるようにして眠りについた。



起きてからはまた、二日酔いの梅雨の世話が待っていた。
梅雨は額を押さえてしきりに頭が痛いだの気持ち悪いだの言っていて、俺はまたしてもかいがいしく世話をしてやる。二日酔いにいいと聞いて豆腐のみそ汁を作ってやれば、具はいらないと言われた。な、何だと…
午後になれば大分調子の良くなった梅雨を連れて、買い物や食事に出掛けた。ちなみに梅雨が今着ているTシャツとスカートは、先程俺の金で購入したものだ。二日間同じ服を着たくないという梅雨の要望を叶えてやった結果である。ちょっと高かったけど、梅雨に似合ってるからよしとする。というかどうせ俺は最初から梅雨の言うことに反発する気はない。

夜も遅く、帰宅した俺たちはバイクで梅雨を駅まで送り、そこで別れた。本当は家まで送っても良かったのだが、梅雨は大学まで二時間電車に揺られて来ているらしく、さすがにその距離は諦めた。
また明日な、と言おうとした時に電話が鳴って、梅雨はそのまま行ってしまった。その表情はやはり明るくて、あいつからだということがすぐにわかる。
正直悔しい。俺がどれだけ頑張ってもさせられない笑顔を、あいつはたった一本の電話で叶えてしまう。俺の方があいつより梅雨を想っているのに、あいつは連絡しか寄越さないような奴なのに、何で。
そうは思っても梅雨の気持ちはあいつにしか傾いてないし、それはこの先もずっとこのままなのかと思うと不毛でしかない。わかってる。本当はわかってるんだ。それでも俺は、


「ばかだねぇ」
「勘ちゃん…」
「好きなら、とっとと教えてやればいいのに」
「それじゃ梅雨が傷付く…」
「あのね兵助、人は隠された時間が長い程傷付くんだよ。お前の取ってる行動は慰めでも何でもない。ただの偽善だ」


そんなの……知ってたさ。

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