八左ヱ門が梅雨のことを思い出すも何もすっかりと忘れてしまった六年の秋頃、彼の友人の一人に奇妙な変化が起きた。休みの度にどこか浮かれた様子で町に行き遊びに誘っても絶対ついてこないのだ。勘の良い八左ヱ門はすぐにピンと来てその友人に相手は誰なんだと根掘り葉掘り聞き出そうとするが、友人は焦ったように頬を染めるだけで決して口を割らないのである。さすが真面目な優等生。滅多なことは口にしない。

「兵助がそこまで入れ込む相手ってどんなんだろうなー、一度会わせろよ」
「…八左ヱ門は女癖が悪いから会わせたくない」
「まぁそう言わずに!いくら俺だって、友達の彼女には手を出さねーよ」
「………」
「あっ、その目は信用してないな!?」
「というか、実はまだ彼女でもないんだよ」
「あ?」
「定期的に会いには行ってるけど…想いはまだ伝えてない。多分、俺なんか眼中にないんだろうな」
「そんなことねーって!お前顔はいいし頭だって悪くないだろ?まぁ豆腐好き過ぎるところがちょっとあれだけど…」
「豆腐が好きで何が悪いんだよ」
「いや、その話はいいから。…兵助が奥手になる程の相手ねぇ、よっぽど訳ありなのか」

八左ヱ門は兵助の気持ちを何となく察し言葉を濁した。兵助がそれ以上何も言わずに押し黙ってしまったのでやはりそうなのだと確信する。しかし毎週のように会いに行っているのに相手にされないとは一体どんな女なのだ?
八左ヱ門は気になりだしたら止まらなかった。長らく生身の女には興味もなかった友人が惚れ込んだ女がどんな人物なのか知りたいという好奇心を抱いた。そうなると八左ヱ門がすることは決まっている。

次の休日、八左ヱ門は外出届けを出して町に向かった兵助の後をこっそりとつけた。万が一見付かったら町に用事があったとでも言っておけばいいだろう。兵助は勘ぐって嫌な顔をするかもしれないが、改めて会わせてくれと頼めばそうしてくれるかもしれない。彼だって初めての恋で右も左もわからぬようだし、少しばかし彼女のことを友人に紹介して自慢したいという気持ちもあるだろう。
兵助は町に入るとどこかで草餅を買い再び歩き出す。彼女への土産だろうか。それにしても彼は大分浮かれているようである。今はかなり接近した八左ヱ門の気配に気付かず女の家を目指しているのだから。
兵助が一軒の家の前で足を止めると八左ヱ門は何やら違和感を感じた。ここは?外から兵助が声をかけると家の中から女が出て来た。その顔を見て八左ヱ門はあっと気付く。梅雨だ。
梅雨は兵助の訪問に笑顔で迎え入れ、腕に抱いた子供を兵助に見せた。兵助は何かを言いながら子供の頭を撫でると子供は嬉しそうに笑って手を伸ばす。そして三人は家の中へと消えて行った。

その様子を隠れて見ていた八左ヱ門は至極複雑な気持ちにかられ笑い合っていた三人の顔が頭から離れない。梅雨を捨てたのは自分だとわかっているのに新しい男が出来るとなるとあまり気分の良いものでもなかった。相手が自分の友人なら尚更。
恐らく二人はまだ恋仲ではないのだろう。兵助は想いを伝えてないと言ったし梅雨には相手にされていないとも聞いた。しかし梅雨のあの表情は満更でもなく子供のことが気掛かりなのだろうが兵助も大分人がいいので、言葉にして伝えれば兵助を受け入れるだろうことが容易に想像できた。それではおもしろくない。

その日八左ヱ門は兵助が梅雨の家から出て行くのを確認してから梅雨の家へと足を伸ばした。戸を叩くと中から「はーい」と懐かしい声が聞こえる。久しぶりに顔を合わせると彼女はとても驚いた顔をしてしかしすぐに八左ヱ門を追い返そうとした。その腕を掴み、八左ヱ門は勝手に家の中に入る。

「久しぶりに会ったっていうのに、追い返そうとすんなよ」
「何を…!私を捨てて行ってしまったくせに!」
「あーはいはい、だから子供の顔くらい見て帰ってもいいだろ?父親は俺なんだし」
「今更来て、父親面なんてしないで!」
「へー、そんなこと言うのかよ。兵助には自分から会わせてるくせに」
「なっ…!何であなたがそんなことを…」
「あ?だって兵助と俺友達だし。これでも付き合い長いんだぜ」

八左ヱ門の言葉に梅雨は絶句した。まさか今好きになりかけた相手がかつて自分が愛した男の友人だとは思わなかった。子供の父親が誰だとは言ったことはないがこの先関係が進めば隠し通せるはずがない。梅雨は顔を真っ青にして俯いた。その横では八左ヱ門が寝ている子供の頬をつついて遊んでいる。

「こいつ、今何才だっけ?」
「…一才になりました」
「へー、じゃぁそろそろ兄弟作ってもいい頃かもしれないな」
「…兄弟?」
「こいつだって、兄弟いなかったら寂しいだろ。俺も上に七人いたし、やっぱ兄弟は多い方がいいよなー」

そう言って八左ヱ門は梅雨の体を引っ張り抵抗する彼女の着物に手をかけた。

「やめて!私はもう竹谷さんのことが好きじゃないのよ!」
「今は兵助の方がいいって?」
「っ、違…!」
「まぁ何と言ったところで俺はやめる気ねーし、あんまり煩くするとあいつ目ぇ覚ますぞ?」
「っ!」
「あやしになんてもちろん行かせねーから、泣いたらずっと泣きっぱなしだな。それでもいいなら声上げろよ」
「っ、あなたって人は…!」

涙を浮かべて睨み付けてくる梅雨を八左ヱ門はただ単純にこの気丈な女を屈服させたら気分がいいだろうなぁと考えていた。久しぶりに触る梅雨の体は子供を産んだとはいえ柔らかく性的搾取の為の相手としては十分に魅力的だった。艶のある唇を舐め口内を蹂躙し妊娠で膨らんだ胸を好きなだけ揉みしだき中を自由に突き上げる。乳首に吸い付いたら液が出て来たので八左ヱ門は面白がって何度も吸ったが別段美味しい味がした訳でもなかったのでがっかりした。しかし梅雨の方は子供に与える分がなくなってしまわないか不安で「もうやめてぇ…」と切なげな声をあげた。
梅雨の体の上で好き勝手にした八左ヱ門がいなくなったのは夜もすっかり更けた頃だった。彼はちゃっかり梅雨が作った夕餉を平らげ目を覚ました子供と遊んでから帰った。子供の方は八左ヱ門の警戒させない態度にすっかり気を許し懐いていたので梅雨としては複雑である。子供への接し方がわからない兵助は慣れるまで二月もかかったのに、それをあの男は一瞬で…

梅雨は身の上に起きてしまったことと兵助への気持ちを踏みにじってしまった事に酷く心を痛めながら溜息を吐いた。そして八左ヱ門が帰り際に呟いた「また来るからな」の言葉を思い出し言いようのない感情が渦巻く。誰かに相談できる訳もなく一人ではどうすればいいかなんて思い付きもしなかった。

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