それからというもの、八左ヱ門は夜に時折梅雨の家を訪れては好き勝手に体を荒らしていった。昼間は互いにやることがあるが夜ならば比較的自由にできるからと言って、梅雨の休みも知らない八左ヱ門は全て自分の都合で梅雨を抱き続けた。
抱いた後で眠ってしまうこともあったが梅雨は何も文句を言わない。つくづく自分のことが好きなのかと八左ヱ門は半ばどうでもいいことのように思った。八左ヱ門にとって重要なのは性的魅力の高い女を自分の好きにできるかということで、別段梅雨自身のことには興味もなかったのである。その証拠に八左ヱ門を好きな梅雨が彼の気を引こうと一生懸命話し掛けるのに「うんうん、それで?」と適当な相槌を打ってはようやく話が終わったところで「で、何の話だっけ」と聞き返すものだから梅雨はその度に悲しい気持ちになった。けれどあの日ゴロツキから自分のことを救ってくれた時から梅雨は八左ヱ門のことが好きで好きで仕方がなかったし、半ば盲目的に彼を愛していたから八左ヱ門の態度がどんなに冷たかろうかいい加減だろうと彼を許し新たな試行に打って出るのである。
その間八左ヱ門は梅雨以外にも女を抱いているのだというから不毛としか言いようがない。二人の想いは完全にすれ違っていた。

そんな状況が数ヶ月続いたある日梅雨は自分の体調の変化に気付いた。月のものが来ていなかったのである。町医者を訪ねるとややこができていると言われた。ややこ。父親の心当たりは一人しかいない。
その日梅雨は夜の間ずっと起きて八左ヱ門が来るのを待った。しかし待てども待てども彼はやってこない。来て欲しい時に待ち人とは現れないものである。そして八左ヱ門はこの時花街で絶賛腰を振っている最中だった。
数日後ようやく姿を現した八左ヱ門に梅雨は体を求められる前に子どもができたことを伝えた。今はなるべく安静にして性交を控えるべきである。しかし梅雨の話を聞いた八左ヱ門はまるで他人事のように相槌を打っては「で、どうするんだ?」と聞いた。

「どうするって…」
「言っとくけど、俺は父親にはなんねーよ」
「そんな…!子供は好きだって言ってたのに」
「子供は好きだけどさ、別に今欲しい訳でも相手は梅雨じゃなくてもいいし…」
「っ!」
「まぁでも堕ろせとは言わないから、好きにしろよ。だけど産むんだったら、俺はもうここには来ない」
「どうして…!?」
「だって、子供までいたら俺が父親だって思われるだろ?俺、所帯持つならどっちかっていうと、可愛くて甘え上手な嫁さんが欲しいし」

梅雨じゃぁ違うんだよなぁと言った八左ヱ門の言葉は梅雨の胸を深くえぐった。そんな風に思ってたんだ…。

その後梅雨の答えも聞かずに八左ヱ門は本当に梅雨の元を訪れなくなり、店にも顔を出さなくなった。梅雨は一人暮らしだったので身篭った我が子を流すことなどできず、一人で産む決意をした。店は何かと手を貸してくれると申し出てくれたし、環境にも恵まれているのだろう。
しかし大きくなったお腹を抱えて町を歩いている時八左ヱ門とすれ違っても彼は梅雨のことを見ようとはせず、隣を歩くとても可愛らしい少女と会話に花を咲かせていた。梅雨は悲しい気持ちになるが話し掛ける勇気もない。家に戻って一人で泣くだけだ。

もうすぐ子供が産まれるというのに未練ばっかりでは子によくない。まともに子育てができるだろうか。不安に思う梅雨は中から蹴ってくる腹を摩り大丈夫よと呟き心を入れ換えた。いつまでも八左ヱ門のことを思っていてはいけない。強くならなければ。
そうして梅雨は八左ヱ門の子を産んだ。産まれてきた子は男の子で鼻のあたりが八左ヱ門に似ていると思う。それをこそばゆく感じながら、性格だけはどうか似ないで欲しいとそっと心を痛め、夫のいない梅雨の子育ては始まった。

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