男なら誰しも一度は恋人や結婚相手以外に‘抱きたい相手’というものを渇望するだろう。それは相手が好きだから体を重ねたいというよりも、綺麗に整った顔立ちやふっくらとした唇、胸に男にはない膨らみを持ち、しっとりとした肌が心地よい、そんな性的魅力を備えた女を前に、どうしようもない欲望を抱いた結果だ。
頭のいい男なら舌先三寸で女を簡単にものにできるかもしれないが、大半が指をくわえて見ているだけである。抱きたいとは思うが恋仲や一生を添い遂げるような関係にまでは発展させる気はない、ただ一回その女を自分の好きなように弄べればと考えながら。そう上手くいく話ではないのだが。

今年四年生になったばかりの竹谷八左ヱ門も、そんな性的魅力を大いに兼ね備えた町娘に、淡い欲望を抱く一人であった。彼女は団子屋の看板娘で店の前で売り子をしている。誰からも美人だと思われる女の容姿はそれだけで十分な客寄せになり店は繁盛していた。
八左ヱ門はせわしなく働く女を見ては紅をさしたあの唇を奪ってやりたいだとか、柔らかな双丘を好きなだけ揉みたいとかいつもくだらないことばっかりを考えていた。しかしそんな妄想は夢物語で、いつものように勘定を済ませた八左ヱ門はさっさと店から立ち去ることにした。長屋に帰って今日の女の笑った横顔をおかずに自分の欲を発散させようと思っている。これもいつものことだ。しかしいざ店を出ようとした時、少しばかしいつもとは違うことが起きた。

女を目当てに声をかけたゴロツキが店の前で声を上げて騒いでいる。女は怯えて「やめてください」と言っているがそれは本当に蚊のなくような声でゴロツキは益々調子に乗ったようだ。
無理矢理女をどこかに連れ去ろうとしている様子を目撃した八左ヱ門はやれやれと溜息を吐いた。それから普段なら絶対に関わろうとはしない場面に自ら足を踏み入れ、女の腕を掴んでいるゴロツキに「嫌がってんじゃねーか」と喧嘩を売り、忍術学園で鍛え上げた体術であっさりと退治してしまった。
女からは泣くほど感謝され店からはお礼にと山ほどの団子を土産にもらった。そして店を去る前に女に呼び止められ、また来週来て欲しいと頼まれる。

「いつも同じ日に来て下さいますよね?」
「俺のこと知ってたんだ」
「客商売ですから…常連のお客様のことなら大体」
「あーなるほど」
「それで、改めてお礼をしたいので、良かったら来週また店に来て貰えませんか?もちろんお茶代は引かせてもらいます」
「来るのは別にいいけどよ、お礼なんていらないぜ」
「そう言わずに!」

本当にお礼などどうでも良かった八左ヱ門だったが、女がどうしてもという雰囲気で迫ってきたので渋々了承して約束をした。女は梅雨といい、団子屋の近くで一人暮らしをしていると言った。歳は八左ヱ門より二つ上らしい。
女の口からそこまで情報を得た八左ヱ門は、帰り道はずっと梅雨のことを考えていた。相手は八左ヱ門が一度でいいから抱きたいと思っていた町娘である。お礼に期待するつもりはないが、万が一梅雨が自分に好意を抱いてくれたら手を出さずにはいられないと思う。止める気も恐らくない。梅雨が嫌がらなければ据え膳をいただくのも悪くはないなと考えてしまうのが健全な男子十三才というもの。八左ヱ門はその日、梅雨の顔で二回ほど抜いた。



翌週、同じ時間に店に顔を出せば梅雨は花のような笑顔を向けて寄って来た。

「竹谷さん!」
「よお」
「こんにちは、どうぞこちらに。すぐにお茶出しますね!」

梅雨は八左ヱ門の顔を見るなり華やかな笑顔を浮かべて接客する。店の奥からいれたての茶と団子を二人分運び、八左ヱ門の前に腰掛ける。疑問に思った八左ヱ門が視線を投げ掛ければ、「今日は午後からお休みをいただいているんです」と言って団子を勧めた。八左ヱ門はなるほどと思いただで食べれる団子をほうばり、梅雨と他愛のない話をした。
その後梅雨は店を出た八左ヱ門についてきて先日のお礼に何か買いたいと言ってきた。しかし急に何が欲しいかと聞かれても腹は満たされたばかりだし必要なものは一人でじっくり吟味して買いたい。そこに梅雨を連れて行くのは少々面倒だと八左ヱ門は考えた。ならば。

「礼って、ものじゃなきゃダメか?」

八左ヱ門の言葉に梅雨は首を傾げる。

「だから、例えば梅雨の家に行きたいとか言ったら、それでもいいか?」
「私の家には特に何もありませんけど…お茶くらいは出せます。竹谷さんがそれでいいなら」
「よしわかった、行こう」

八左ヱ門は即答すると梅雨の手を引っ張って歩いた。急に引っ張られた梅雨は思わず前につんのめり、慌てて八左ヱ門を家に案内する。梅雨の家に着いた時、八左ヱ門の頭の中には梅雨の体のことしかなかった。

「ここが私の家です。どうぞ寛いでて下さい」

梅雨がそう言って湯を沸かしに行っている間に、八左ヱ門は勝手に梅雨の家の奥に足を進め押し入れに入っていた布団を床に敷いた。戻って来た梅雨が驚いて八左ヱ門の顔と布団を見比べて何かを言いかけたが、その前に八左ヱ門が梅雨の体を抱いて布団の上に倒した。梅雨が慌てて起き上がるが、上に乗った八左ヱ門がそれを許さない。「何を…」とかろうじて出た言葉は八左ヱ門の耳には届いたが胸にまでは響かなかった。

「何って、礼してもらおうと思って」
「そんな…!」
「男を家に上げるってことはそういうことになるんだって、わかってなかった訳じゃないんだろ?梅雨、俺のこと好きそうだし」
「っ…」
「俺もずっと梅雨を抱きたいと思ってたから、ちょうどいいじゃん。少なくともこの間のゴロツキに犯されるよりは、よっぽどマシだろ」
「っ、私は、竹谷さんのことを本気で…!」

梅雨が発した言葉は八左ヱ門の口の中に吸い取られた。唇を重ねられあっという間に着物を脱がされる。事は梅雨が想像しているより性急に進められて、その分初めてを奪われる痛みも容赦なかった。それでも八左ヱ門に淡い想いを抱いていた梅雨は文句の一つも零さず、一心不乱に腰を突き上げる八左ヱ門にしがみつき、声を上げながら体内に彼の精子を受け入れた。体の奥で八左ヱ門のそれが脈打っている。梅雨はうっすらと八左ヱ門の顔を見上げると、小さな声で「お慕いしています…」と呟いた。そして意識を失う。

目を覚ました時梅雨は一人だった。日はとっぷりと沈み、空気も昼間よりぐっと下がっている。隣にあったはずのぬくもりはない。書き置きの一枚もなかった。
梅雨は泣きそうになる自分をいさめ自分の体をかき抱いた。夢であって欲しいと思う反面想いを寄せた相手に触れられたという気持ちがごっちゃになり、訳がわからない。好きなのに。これは幸せなこと?
足の付け根を伝う体液が酷く現実的で、それだけで地獄に落とされた気分だった。

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