久々知先輩は大の豆腐好きで有名だ。それはこの学園の誰もが知っている。 そして私はその久々知先輩と付き合っている。 豆腐は好きでも嫌いでもないけど…久々知先輩はどう思ってるんだろう。やっぱり、私も豆腐、好きになった方が、いいのかな。どうなのかな。 「くくちせんぱい」 「ん、何?」 「くくちせんぱいは、私が豆腐を嫌いだと言ったらどうしますか?」 「嫌いなの?」 「違います。でも、別段好きという訳でもありません」 「そうか」 「くくちせんぱい、くくちせんぱいは私が豆腐を好きだと言ったら嬉しいですか?好きになって欲しいですか」 「どっちでもいいよ」 「どうしてですか?」 「俺は豆腐の好き嫌いで梅雨を好きになった訳じゃないから。そりゃ、好きな物が同じなら嬉しいけど、それは豆腐以外でも言えることだし」 久々知先輩はそう言って、ふわりと私の頭を撫でた。私よりも少しおっきな手。柔らかであたたかい。凄く安心する。 「くくちせんぱい、いいんですか?」 「何が?」 「私、この先も豆腐を好きにならないかもしれません」 「構わないよ。それよりもっと別の物で好きな気持ちを共有しよう」 「親友のちーちゃんの実家は、豆腐屋なんですけど」 「それは素晴らしいことだね。ちーちゃんを大事にしてあげて」 「はい。でも、あの、私は……」 言葉に詰まって困った表情で久々知先輩を見上げると、久々知先輩はふっと口元を緩めて、穏やかに笑った。 あぁ、全部見透かされているなって、わかった。 「心配しなくていいよ。俺が好きなのは梅雨なんだから」 「………」 「豆腐が好きじゃなくても、いつか好きになってくれても、梅雨を好きな気持ちは変わらない。梅雨が俺を嫌いにならない限りは」 「くくちせんぱいって…」 「うん?」 「一途なんですね」 私が真面目な顔をしてそう言ったら、久々知先輩はキョトンとして、すぐにまた笑った。 「何せ、豆腐だけでもう10年は好きだからね」 |