「小松田くん、この書類を山田先生に届けてね」 「はぁい」 「それから、この手裏剣も倉庫に戻しておいて」 「はぁい」 「そうそう、ついでに学園長先生の所に伺って、油を渡してきて欲しいんだ。昨日油が切れて夜ずっと暗かったと文句を仰られてね…明かりがなかったらなかったで、すぐに寝ちゃう人だけど」 「はぁい」 「じゃ、頼んだよ」 吉野先生に言いつけられて、僕は分厚い書類の束と、手裏剣の入った箱と、油の入った瓶を持って廊下を歩いていた。結構な大荷物で、吉野先生は相変わらず人遣いが荒いなぁと思いながら、倉庫にやってきた。 何を仕舞えばいいんだっけ、と一瞬迷っていたら、向こうからいつもの三人組がやってくる。 「あ、小松田さんだー」 「仕事してるぜ」 「それにしても、凄い荷物…」 乱太郎、きり丸、しんべヱの三人は途端に嫌そうな顔をして指をさしたので、僕はなんだようと声をかけた。 「君たち、仕事の邪魔をしないでよね」 「そんなこと言っても」 「僕たちが邪魔をしなくても、小松田さんは自分から間違えるから」 「そうそう」 「えぇ?そんなはずないよ!」 だって、これでもずっと忍術学園の事務員をやってるんだから。そりゃ、乱太郎たちよりは、ここに来た日が浅いから、そう見えるかもしれないけれど… 「んじゃぁ、ここで何の用事を済ませてたんですか?」 「え?」 「見たところ、凄い荷物ですけど…」 「どこに何を置いてくるか、ちゃんと聞いてきましたぁ?」 なんて、しんべヱにまで言われたら、さすがの僕だってムッとしちゃうよ。 僕は風呂敷に包んでいた油入りの壺を置き、「大丈夫だから、そんな事言わないでよね」と言って三人を見返した。そして、今度は山田先生のところに向かう。 後ろから、「違うような気がするんだけどなー」という三人の言葉が聞こえたけど、僕は無視をした。だって、早く仕事を終わらせて、梅雨さんに会いに行きたかったから。 「失礼しまぁす」 山田先生の部屋に行くと、山田先生は不在で、僕は手裏剣の入った箱を机の横に置いた。直接渡さなくても、多分これでわかるだろう。 最後は学園長先生のところだ、と思って書類を手に校庭を歩いていたら、突然地面が窪んで落ちてしまった。勢いで書類が舞い上がる。 いてて…何これ、落とし穴?きっとまた、四年生の綾部くんの仕業だな! 「も〜、何も僕を狙って落とさなくたっていいのに…」 書類を持っていたせいで、足元がよく見えなかった。目印なんて、気づくはずがない。 僕はため息を吐きながら、穴の淵に手をかけた。と、その時上から白い手が伸びてきて、僕を見下ろす。誰だろうと思って見上げたら、梅雨さんだった。 「大丈夫、小松田くん」 「梅雨さん?」 「小松田くんのことを探してたら、目の前で穴に落ちちゃうんだもの…びっくりしたわ」 「あ、ごめんね…心配かけちゃった」 「気をつけて。さ、早くここから出ましょう」 僕は梅雨さんに助けられながら、穴から這い出した。僕を探していたという梅雨さんは、理由がどうあれ、僕に会いに来てくれたことが嬉しい。それに、今日もまた、とっても可愛い。 思わずえへへ、と笑ってしまったら、梅雨さんはちょっとだけ笑って、小松田くんたら、なんて言ったから、余計あったかい気持ちになれた。 「そういえば、僕を探してたって、どうして?」 「そうそう…吉野先生に頼まれたのよ。小松田くんがまた、頼まれたことを間違えていないか、確かめてきて欲しいって」 「えー…それって何か、僕が信用ないみたいじゃないか」 梅雨さんにもせっかく会えたっていうのに…そんな理由じゃなぁ。何だか、自分が情けない。 梅雨さんはまぁまぁと笑って、私も手伝うから、と言ってくれた。 「とりあえず今は、散らばった書類をなんとかしないとね」 「あ…そうだった!」 「少し汚れちゃったけど、軽く叩けばなんとかなると思うし。ちゃんと謝れば、山田先生も許してくれるはずだわ」 「そうだね…え?山田先生?学園長先生じゃなくて?」 「だってこれ、1年は組のテストに使う資料でしょ?吉野先生もそう仰られていたし…」 「………」 「小松田くん、まさか…」 そのまさかだよ、梅雨さん。僕はまた、仕事でミスをしちゃったみたいだ。 しゅん、と小さくなる僕を、梅雨さんはしょうがないわよ、と慰めてくれた。 「ゆっくり、一つずつこなしていきましょう。小松田くんがわざと間違えてるだんて、誰も思わないから」 「そうだよね…」 「じゃ、書類を集めましょう」 僕と梅雨さんは、あちこちに散らばった書類をかき集める為に動きまわった。 ああ、僕はまた好きな人の前で情けない姿を晒しちゃったなぁ…梅雨さんは気にしてないっていうけど、さすがに何とも思ってない訳じゃないだろうし。何とか、ならないかなぁ…。 それにしても今日はいい天気だった。青空の下を、僕たちが集める書類が1枚、遠くまで飛んでいった。とても気持ち良さそうだ。 そんな書類を追いかけて、僕はまた走り出す羽目になったのだけれど。 紙飛行機を空に託す |