「夜中に突然、知らない男が部屋に入ってきたかと思えば、体をまさぐられて…」
「う……」
「抵抗しても、女の力じゃ男に敵わない。これって、もし私が抵抗してもハチは止めないってことよね?」
「いや、そんなことないって!」
「どうなんだか…」
「信じてくれよ!」
「…で、揚句の果てに胸の大きさで人違いに気付く、か…」
「そ、それは……」
「確かに私はこんな胸だから、触れば一発で違うって気付くだろうけど?でも、その子にとっては酷い屈辱だったでしょうね。襲われかけて、実は人違いなんて…」
「……返す言葉もありません」
「あったら怒るわよ。で、ハチは間違えた後、その子に向かって何て言ったの?」
「い……」
「い?」
「犬に噛まれたとでも思って、忘れてくれって……」

「最低ね」

ボロボロのハチに向かって、私は容赦なく言葉を浴びせる。これよ。これなのよ、私がハチに対して一番怒ってる部分は。

「胸まで触られて、それがどうして犬に噛まれた程度で済まされると思ったの?」
「いや、あの時は俺も焦ってて…咄嗟に出て来たのがあの言葉で…」
「普段から動物の世話ばっかりしてるからだわ。ものの例えが、すぐに動物になるのよ…」
「それは否定しないけど…」
「ハチにはわかる?その子が襲われかけた時、どれだけ怖かったのか」
「……はい」
「だったらもう今後一切、そういう事はしないでよね。部屋を間違えるなんて言語道断。それと……私だって、ハチが他の子に触れるのなんて嫌なんだから」
「梅雨…」

私は立ち上がって、ハチの側まで行く。未だ床に手をついたままのハチの手を取って、きゅっと握りしめる。
私だって、嫉妬するのよ。ハチのことが好きなんだもん。今回は、ハチが触ってしまったって子は実は私だったから良かったけど、そうじゃなかったら物凄く悲しいんだから。

「梅雨…」

泣きそうな顔の私を見て、ハチがそっと抱きしめた。その心地良さに私は酷く安心する。

「ハチ…ちゃんと反省してる?」
「してる…二度と梅雨以外の女の子には触らない」
「じゃぁ…きっとその子も許してくれるわ」
「本当か?」
「うん…でも、私はまだ心の整理がついてないから…」

ハチの背中に手を回し、抱きしめ返す。どくどくと高鳴る胸を抑え、私は小さな声でハチの耳に囁いた。

「昨日の夜、ハチが女の子にした事、私にして?じゃなきゃ、許さないよ」
「っ、」

そう言って顔を赤らめたら、すぐにハチの顔がいっぱいに広がった。私は目を閉じてそれを受け入れる。
最初はゆっくり、優しく啄まれて、段々と深くなる…昨日よりはとても穏やかで、怖くない動き。私は息を乱しながら、ハチと舌を絡める。

「っ、ん……ふ…ん…んんっ、ん…っ」
「っは、…んっ」
「んん…ぁ…はん……ん…んっ、んっ…」

ちゅう、と吸い合い最後に唇を舐めとられる。昨日はこんなことしなかったのに…随分と、優しい。
そのままハチの手は私の体を撫で、首筋に顔を埋める。着ていた制服をはだけさせたところで、ピタリと手を止めた。

「…ぇ、さらし…?」
「……外していいよ」

私は恥ずかしくなりながらも、相手がハチだから、小さな声でそう言った。ハチがごくりと息を飲み込んだ。キツク巻かれたそれを器用に解くと、そこには普段ぺったんこなさらしに隠されている私の胸が現れる。
ハチは驚いて私の胸と顔を交互に見た。

「え?え?梅雨、これって…」
「…ハチの馬鹿。気付くの遅いのよ」
「え!?じゃぁ昨日のもやっぱり、梅雨であってたのか!?」

嘘だろ!?と混乱するハチがおかしくて、私はクスクスと笑った。そして、首に手をかけて引き寄せる。

「今まで黙っててごめんね。普段がこうだから、言う機会がなかったのよ」
「それは…別にいいけど。無いよりはあった方が、俺も嬉しいし…いや、梅雨なら全然なくても構わないけど!」
「ふふふ、いいよ、もう。まぁ、ハチにならいつ言っても良かったんだけどね…昨晩のことは私にとっても色々ショックだったから、さっきは言わなかった」
「ごめんな…怖い思いをさせた」
「私もごめん。思いっきり殴っちゃって、痛かったでしょう?」
「こんなの、すぐ治るから気にすんな。悪いのは俺なんだし…」
「ううん、本当は私も、ハチならいいって思ってたんだよ…だから最初は怖かったけど、相手がハチだってわかってからは、恥ずかしかったけど…嬉しかった…」
「梅雨…」

ハチの顔が再び近付いて、唇を重ねる。手は胸を優しく包み、持ち上げるように触れる。小さな声を漏らしながら、私はハチの首に抱き着いた。ハチはさらに、私の体の至るところに触れようとする。
…でも、いつまでも調子に乗せておく訳にはいかない。
私は先に進もうとするハチの頭を押して、ハチの手をどけた。

「え、何かまずかった?」
「まずくはないけど…これ以上はだめ」
「どうして…」
「だって私、最初に言ったでしょ?『昨日の夜、ハチが女の子にした事を私にして』って」
「うん?」
「…私、これ以上のことはされてないし。だからこれ以上はダメよ」
「んなっ…!」

いたずらっぽく笑えば、ハチは衝撃をくらったようで、ガックリと肩を落としていた。他にも理由はあるけれど、躾るところはちゃんと躾ないと。このまま甘い雰囲気、とはいかないでしょ?

「こんなところで止めるって言われても…」
「ハチ、私が傷付くのは嫌なんじゃないっけ」
「そうだけどさぁ…」

ぐすん、とお預けをくらった犬みたいに、ハチは落ち込んでいた。まるでない耳と尻尾が垂れているように見える。ハチって、雰囲気が犬に近いのよね。嬉しいことも悲しいことも、素直に表現してくれる。
私は乱れた制服を直しながら、クスクスと笑って身を寄せた。

「そんなに落ち込まないで?」
「落ち込んでる訳じゃないけど…」
「続きは、また次の機会に。今度はちゃんと、最後まで付き合うから」
「…絶対だぞ」
「ハチこそ、もう間違えないでね」

胸が大きくても、私なんだって、ちゃんと気付いて?

私の視線に気付いたハチが、笑ってもうそんなことはないと言う。
それから、先には進まない代わりに、もう一度口付けを交わす。

私とハチは、そうして甘い時間を過ごした。

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