女の子の悩み


毎朝日が昇ると同時に目を覚ます。
眠いとは特に思わない。もう、慣れてしまったから。
布団から這い出て、簡単に髪を結い上げる。手ぬぐいを持って顔を洗いに行った帰りには、同室のくのたまも目を覚ましていた。
彼女は少し眠たそうにしてたが、ここは忍術学園。朝は早く起きるに越したことはない。
そして、既に習慣となった私が同室のせいで、彼女も同様に起き出すようになったのだ。

「おはよう、梅雨…」
「ん、おはよ」
「もう朝かぁ…なんだかちっとも寝た気にならない」
「夜更かししてるからだよ」
「そうね…今夜は早く寝るわ。今日は実習もあるし」
「忍たまと合同だっけ、」
「そうそう。だから絶対いつもより体力使うはず」

私は友人と会話をしながら、テキパキと支度を整える。何せ私の朝は時間がかかるのだ。
着替える前に、胸にさらしを巻かなければならない。何故か人より大きく育ってしまった私の胸は、動く度に揺れてしまって邪魔になる。友人も中々な大きさだけど、私からしたら可愛いサイズだ。私もせめてあれくらいだったらな…。と何度も思った。
でも、体の特徴は自分ではどうしようもない。丈夫に産んでもらっただけ、感謝しなければ。
それに、シナ先生には私の体は色の術を使うには向いているのよ、と諭されたから、そこまで思い詰めている訳でもない。そんな機会は、滅多にないけれど…。

準備が終わった友人と共に、軽く体を動かしてから食堂に向かう。朝早い時間帯は混雑してなくていい。
ゆっくり朝ごはんを楽しみながら、気合いを入れるのだ。
よし、今日も一日頑張ろう。





午後から、予定されていた忍たまとの合同実習があった。私はくじで、竹谷と組むことに。竹谷とは同じ学年だけど、ほとんど喋ったことはない。実習で組むのも初めてだ。

「よろしくな、えーと…」
「蛙吹梅雨」
「おう、蛙吹!俺は竹谷八佐ヱ門だ」
「こちらこそよろしく、竹谷」

実習は、裏裏山まで行って戻ってくること。ただし、途中でどこかに隠されている巻物を見付けてこなければならない。所用時間と、見付けた巻物の種類で点数が付けられるらしい。

「蛙吹、実戦は得意か?」
「結構ね。竹谷は?」
「俺も、体を動かす方が得意だから…っと、体力には自信ある」
「頼りにしてるわ…っえい!」

木の上を走りながら、お互いの情報を交換する。
こう見えて、私は実戦は得意な方である。何もしてない状態では胸が邪魔をして全然ダメなのだけど、サラシを巻いている今は絶好調だ。むしろキツメに巻かれたそれが、気を引き締めてくれる。

「竹谷、そっち罠じゃない?」
「おお、みたいだな。危ねー危ねー」
「巻物はどこにあるのかしら…」
「さっき地図を確認したんだが、多分1つは予想がついた」
「本当?」
「あぁ、でも俺で予想がついたってことは、他も気付いてるだろうしなぁ…早く行かないとなくなってるかも」
「わかった。じゃぁ急ごう」

頷き合って、私はさらに速度を上げた。
走るのは決して遅くない私だけど、やっぱり男の竹谷と比べると差はある。竹谷は私に合わせて走っているのだ。
森を抜けて行くと、大きな崖に出た。竹谷が言うには、巻物はこの辺りにあるらしい。

「ほんとにここ…?」
「俺の勘が間違ってなければ」
「とにかく、探してみましょう」
「あぁ…気を付けろよ!」

私と竹谷は手分けして周囲を探した。けれど、それらしき物は見付からない。隠してあるとは言っても、何かしら見付かると思ったんだけど…
竹谷の勘が外れたのか。そう思って崖添いに戻ろうとした時、足場が崩れて私の体は浮遊感に包まれた。

「きゃっ…!」
「蛙吹!?」

崖から滑り落ちそうになった私の腕を、咄嗟に竹谷が掴んでくれた。お陰で私は落下せずに済んだ。

「大丈夫か!?すぐに引き上げからな!」
「う、うん…あ、待って竹谷!」
「どうした!?」
「あそこに巻物が…!」

宙ぶらりんになった私の指先に触れるか触れないかのところに、巻物が置いてあった。色は赤。高得点の巻物だ。
崖の下のくぼみに隠すなんて、中々難易度が高いじゃないか。私は巻物に向かって手を伸ばす。

「竹谷、そのまま私の腕掴んでてね」
「蛙吹!?」
「大丈夫、もう少しで取れるから…」
「無茶するな!それより、お前を助ける方が先だ!」
「そんなこと言っても…あと少しだから、」

適当なくぼみに足を引っ掛けながら移動する。これなら、多少なりと安定感は得られる。
ぐい、と巻物に手を伸ばした私は、ようやくそれを手に入れることができた。良かった。これで学園に帰れば、私たち高得点だよ。
そう思って竹谷を見上げた瞬間、足を引っ掛けていたくぼみがまたしても壊れて、私は再び落ちると思った。

「!?」
「っ!!」

あっ、と漏れそうになった言葉。でも次の瞬間には強い力で思いきり引き上げられていて、私は竹谷の腕の中にいた。
尻餅をついた竹谷とそれに抱き着く私。二人とも、心臓がバクバクいっている。

「ビビった…驚かせんなよ、マジで…」
「ご、ごめん…」
「俺がいなかったら2回も死んでるんだからな…無茶すんな。実習より命の方が大切なんだからな」
「うん…」
「あー、ホントに心臓に悪い…」

竹谷は私の肩にあごを乗せ、ため息を吐いた。

「ごめん…心配かけた。もうこんなことはしないよ…」
「そうしてくれ」
「巻物も、今考えれば投げ縄使って取れば良かったんだね…」
「ほんとに意味なかったな…」

意味がない訳じゃないけど、危険を侵してまですることじゃなかった。私たちは手を取り合って立ち上がり、巻物を持って学園に戻った。先生に報告しに行くと、よく見付けられたなと言われた。

「これ、凄くわかりにくい場所に隠してあった上に、取るのも苦労しただろう。何せ縄の扱いが上手くないと、巻物を落っことしてしまうからな」
「はは…そうですね」
「ん?蛙吹、随分汚れているが、途中で転びでもしたか?」
「えぇ、まぁ…2回程」
「お前は元々実戦に向いてるんだから、最後まで気を抜くなよ。よし、二人とも行っていいぞ」
「「ありがとうございました…」」

ボロボロになった私と竹谷は、報告を済ませてさっさと引き下がった。
私は早く着替えないと。汚れが目立つ。

「竹谷」
「ん?」
「今日はホントに助かったよ。ありがとね」
「おう」
「また実習があった時には、私竹谷と組みたいかも」
「へ?」
「それじゃ、また」

ポカンとしている竹谷を置いて、私は長屋の自分の部屋に戻った。友人はまだいない。汚れた制服を脱いで、新しい制服に身を包む。そこでふと、竹谷のことを思い出した。
体、私より大きかったなぁ…軽々と引き上げてくれたし。さすがは、男の子だ。今度何か、差し入れてみようか。今日のお礼もしたいし。なんて、

「恋する乙女じゃあるまいし、浮かれたってな〜」

私はふっと小さな笑みを浮かべて、手を動かすのを再開させた。

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