せわしなく働いていた午前中と違い、午後は一息ついてお茶を入れる。
日曜日は平日と違って、家に一人でない分することが多いように思えるが、梅雨にとってはそう変わりのないものだった。なぜなら、戸籍上の夫である弥之三郎は休日など関係ないように仕事をしているし、息子である三郎は平日も休日も同じように梅雨にべったりなのだ。幼稚園がない分、幼稚園に行きたくない、行きなさい、という毎朝恒例のやりとりがなく、少しばかり楽といえるのかもしれない。
梅雨は甘えてくる三郎を膝の上に乗せて、昼ドラを見ていた。するとあ、と声を漏らした三郎が、珍しく自分から梅雨の元から離れた。


「三郎、どうしたの?」
「おかあさんに、あげるものがあるの!」
「私に?」
「きのう、ようちえんでかいて、それで、きょうわたしなさいってせんせいが…」
「?」
「…おかあさん、いつも、ありがとう!!」


突然バッと目の前に広げられたのは、A4サイズの画用紙。そこにはクレヨンで、梅雨と三郎、そしてすみっこには申し訳程度に弥之三郎の姿が描かれており、拙い文字で『おかあさんだいすき』と描かれていた。どうやら、幼稚園の行事で、母の日に渡す絵を描かされたのだろう。
しかし梅雨は突然のことで目を白黒とさせており、状況を理解できなかった。
そこで三郎が、きょう、ははのひだから!と叫んで、嗚呼そういえば、と思い出したのだった。


「そっか…今日、母の日だっけ」
「そうだよ!」
「それで、三郎が絵を描いてくれたの?私と、三郎…そしてお父さんの」
「…ほんとは、おとうさんは、かくよていはなかったの。でも、おかあさん、おとうさんがいないとかなしいかなって、おもったから…」
「うんうん、ありがとう。お母さんはね、家族みんなが好きなのよ。だからこの絵は凄く嬉しい」
「…ほんとう?」
「えぇ」
「あとねあとね、はなもあるの!せんせいが、つくりかた、おしえてくれた…かーねーしょんっていう、はな!」


はい、と手渡されたのは、折り紙で作られた偽物のカーネーションだった。それでも、梅雨は三郎が自分のために作ってくれたことが嬉しくて、ぎゅっと抱きしめた。
何度もありがとう、と涙ながらに伝えれば、三郎は少し驚いて、でもとても誇らしそうに喜んでいた。自分の絵と花を、梅雨が喜んでくれている。それが、何よりも幸せだった。


「おかあさん、おかあさん、だいすき!これからも、ずっとだいすきだよ!」
「えぇ、私もずーっと三郎が大好きよ。ありがとう」


こうして母子の幸せな一日は、満たされたのだった。

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