「かわいい、」

…と呟いたのは兵助の声だろうか。
兵助の姿を見ずに私はぼーっとしていたが、多分、それは聞き間違えなんかじゃない。

だって私は兵助と尾浜の部屋に居るから。
兵助と同室の尾浜は鉢屋に委員会だからなんとかかんとか、と連れられて、今は部屋にいない。

いつもなら、兵助は豆腐を眺めている。豆腐を眺める兵助はあまり喋らないから、私と尾浜が世間話を繰り広げている、のだが。

…お茶会委員会に私の話相手を連れていかれてしまった。

…鉢屋の馬鹿野郎、寂しいんだぞ、私。
まあでもそのおかげで普段あまりしない兵助とのスキンシップも増えるかもしれないな、なんて思ったけれど。

でもそういえば、さっき聞こえた兵助の声。
彼はとうとう豆腐に可愛らしさまで見い出せてることまでわかった。

…これは嫌味じゃない。

私だって豆腐が嫌いなわけじゃない。…むしろ、私は豆腐が好きだ。もともとは普通に食べるだけだったけれど、兵助と一緒に居ると、今まで食べたものより美味しい豆腐を彼は教えてくれて、すっかり私も好きになった。
…だけど、私は彼のように可愛らしさまで見い出せる程、豆腐を愛してはいない。

食べ物を可愛がる、とか…彼の頭の中は豆腐に染まってるに違いないんだと、私は思う。

…明らかに私の負け、である。


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