私はタソガレドキ忍者隊に所属している諸泉尊奈門。
最近、上司の言動がとても我が儘になり、正直とても苦労している。それまでは、多少の問題を引き起こしてもすぐに解決できていたのに、今回はやたらと長引いている。それもこれも全て、上司である組頭の奥方に子供ができたからだ。
今まではあまり家にも帰っていなかった組頭が、子供ができた途端仕事をサボるようになった。以前なら私でも同情するくらい、自分の家に帰らなかったというのに…最近の私の仕事は、組頭を引き止めることだ。


「組頭!どこにいくんです!?」
「ん?家に帰るんだけど」
「家に帰る、じゃないですよ!まだ仕事終わってないじゃないですか!」
「だって梅雨のことが心配なんだもん。つわりで苦しんでないかなーとか、もしかしてもう生まれてたりして、とか考えてたら…」
「まだ四ヶ月でしょう!?子供はそんなに早く生まれませんよ!」
「そんなこと言っても心配なのは変わらないし…後のことは尊奈門に任せたよ」
「組頭!!」
「文句は文書で提出するように。じゃ」
「あぁぁぁー!」


私が止める間もなく、組頭はさっさと消えてしまった。また…逃げられた。今月でもう三度目だ。いい加減にして欲しい。一体どこの忍者隊の忍組頭が、早々に席を外してしまうというんだ…。
私は組頭のいなくなってしまった部屋で溜息を吐いた。
そりゃ、組頭の気持ちはわかる。子供ができて凄く嬉しいことも、同時に心配していることも。奥方も、以前よりずっと家に帰るようになった組頭に喜んでいるはずだ。状況が状況だし、側にいて欲しいだろう。
だけど、組頭は組頭で。やっぱり私たちの為にもいてもらわなくちゃいけない存在なんだ。任せた、なんて言われても、結局は組頭の代わりなんてできないのだから。

そう思って組頭の家に行く決心をした私は、何か持って行くものはないかと部屋の中を探した。まさか手ぶらで組頭の家に行く訳にはいかない。あそこには組頭の奥方もいる訳だし。私自身、奥方には何かと世話になってるし、最近は甘いものが大好きだという話を組頭から聞かされていた。
部屋の中にはめぼしいものが見当たらないから、近くの茶屋で包んでもらうか…きっとまた苦笑されながら、ごめんなさいねぇって言われる。もう慣れてしまったから、私もあまり言わないけど…

けど、けど!


「やっぱり、私だけが組頭の世話係になっているのはおかしい。せめてローテーションとか組んだっていいじゃないか!」


私だけの組頭じゃないんだし。いなくて困るのは、他の仲間達にとっても同じこと。だったら、みんなも組頭を引き止めるべきだ。


「という訳で、誰か組頭の家に…」


仲間の気配がする方に向かって口を開いた途端、気配は一斉に消えた。え!?何でみんな逃げるんだ!?


「みんな、私の話…」

「組頭のことは尊奈門に任せた!」
「早く行ってこいよ!」
「日暮れまでにはちゃんと連れ戻してきてな!」


…聞いてはくれない。
みんな、嫌なんだ。組頭の面倒をみるの。それは私だって同じなのに。

私はもう一度深い溜息を吐いて、脱力した。


そして僕は哀しい

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