「……魔法省大臣のコーネリウス・ファッジ、だ」
細縞のマントを着たイギリス魔法省大臣の緊張は計り知れなかった。
その原因は彼の目の前にいる一人の少女――梗子・怜宮である。
本日はテスト最終日で、この時点で自分の科目のテスト――勿論、課す側である――は全て終わっていた諒子。
さて帰ろうか、そう思っていたところで校長に呼び止められ、何かと思ったらイギリス魔法省大臣との面会だった、と言うわけである。
彼は数年前にこの職に就いていたのだが、諒子が日本に於いての魔法省大臣のような地位である“陰陽頭”に就任してから1年経っていないために、まだ実際に交流はなかった。
魔法界でもマグル界と比べて盛んではないが、国際会議が存在する。
しかし、数年に一度か緊急時くらいであり、諒子が国際的に表舞台へ出たことはまだない。
「第114代陰陽頭の梗子・怜宮と申します」
諒子はいつもの如く表情一つ変えずに名乗った。
これはイギリス魔法省大臣にとってはかなり堪えることだった。
目の前の梗子・怜宮と言う存在は自分と同じかそれ以下――年齢が明らかに下であり、一国のトップに就いてから日が浅い――だというのに、自分は緊張していて、相手にはそれが全く見られない。
事実、諒子は緊張など一切していない代わりに早く帰りたいとしか思っていない。
威厳を保っていなければならない立場としては癪に障ることなのだ。
しかし、諒子の落ち着き様、それから何か人を寄せ付けないような雰囲気に押されて、緊張が解けるどころか畏怖の念まで出てきそうであった。
「可愛くても甘く見てはいかんのじゃよ。こう見えて梗子は実に優秀での」
それを横で見ていたダンブルドアはさらりと言った。
それはまたもやイギリス魔法省大臣への脅威になった。
自分が認め、尊敬している存在が“優秀だ”、そう言っているのである。
「梗子に協力を請う事態も発生するかもしれん。この機会に仲良くなっておくといいじゃろう」
ダンブルドアはイギリス魔法省大臣にそう言った。
彼はここで気付いた。
ダンブルドアが梗子・怜宮を自分と会わせるためではなく、自分を梗子・怜宮に会わせるために動いたのだ、と。
自分は、この少女よりも下だというのか、そう思っても、認められなかった。
かくして、彼の中に対抗心のようなものが芽生えてしまった。
小さな敵意が向いた瞬間、それを察知した諒子は頭の中で、ああ、この人もか、そう思っていた。
諒子は日本に居る、権力に固執し、何かと自分に刃向う存在を思い浮かべた。
しかし、そういう人間と言うのは権力の獲得が先行して実力やら手腕やらは二の次になる、要は取るに足らないものなのだ。
――まあ、敵だと認識され、ひどい場合に攻撃を受けようとも“面倒なだけで”大事には至らない。
諒子にとって、イギリス魔法省大臣と言うのはそんな存在になった。
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