扉の合言葉を手に入れて、寮に入り込んだのはいい。

しかし、叫び声を上げられて、“アイツ”は見つけられず、結局何も収穫のないままに逃げざるを得なかった。



「シリウス!」

突然、後ろから呼び止められた。

犬の姿を取っている自分を、『シリウス』と呼ぶのは……“あれ”しか思いつかない。


「私はあなたの味方なのに、どうして黙って出て行っちゃったの?……それに、私、迷惑なんかじゃないよ?」

だって、あなたを救いたいんだもの!、彼女――エレン・フェリスはそう言った。


やはり、この、エレン・フェリスという少女は不気味でしかない。


第一、彼女は最初から慣れ慣れしすぎた。

まるで、本当に自分のことを知っていたかのように。

それに、エレン・フェリスはことあるごとに“救いたい”、そう言うが初対面に近い人物が何の得もなしにそれをやるだろうか?

自分に何の得もない、むしろ損をするような状況で動くのはごくごく少数の完璧な善人か、何か企んでいるか……ではないかと思う。

それでは目の前の少女は?

分からない。彼女の意図が分からない。


ともかく、“アイツ”を何とかしなければならないこの状況に於いて、不安要素はなるべく取り除きたい。


だから、必死に、彼女から逃げた。



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