「えー。別にクィディッチなんてどうでもいいもん」
ルクレツィアは言った。
「箒で飛ぶとか意味わかんない。工学的に見て不安定すぎるもん。普通に考えて飛べる要素なんて一つもないし。まあ、魔法でどうにかこじつけているんだろうけど」
隣でそれを聞いていた諒子は心の中では大いに同意していた。
そしてさらにその隣にいたルーピン教授は驚愕していた。
本日はグリフィンドール対レイブンクロー。
本来なら自寮の席にいる筈のルクレツィアは教員席の諒子の隣にいた。
「……驚いたなあ。まさか、クィディッチがどうでもいいなんて……みんな大好きなものだとばかり思っていたよ」
そうか、とルーピン教授は顎に手を添えていた。
そこへ、あまり感心しませんな、と低い声が聞こえた。
「何故、生徒が教員席にいるのでしょうな」
「うるさいうるさい!いいじゃない、きょーこちゃんがいるんだからっ!」
後ろにいたスネイプ教授の嫌味に、ルクレツィアはいつもの如く吼えた。
ほら、もうすぐはじまるから、とルーピン教授が諭して、何とか収まった。
「そう言えば、梗子はどうなんだい?クィディッチは好き?」
「……特には」
ルーピン教授は再び驚愕し、ルクレツィアは同志の存在に目を輝かせた。
「だよねだよね!馬鹿馬鹿しいよね。それより、数学教えて!」
ルクレツィアはここではあまり見かけない“ノート”を取り出した。
三角関数だの弧度法だの逆三角関数だのという言葉が飛ぶ中、諒子の隣にいたルーピン教授は疎外感を感じ、一人クィディッチの試合を見ているしかなかった。
時々、わざわざここまで来て勉強とは感心ですな、などと嫌味は飛ぶが、諒子は相手にしないし、ルクレツィアは集中しているし、で、それはから回っていた。
そもそも、諒子はクィディッチが見たいわけではないから何もなければここに来ていはいない。
しかし、もともと校長から警戒するように言われている上、グリフィンドール寮の寮監、マクゴナガル教授に『何かあったら心配だから絶対に見に来て』と言われていたから仕方がないのである。
マクゴナガル教授は自分でも箒を調べていたし、諒子にも見てもらったというのに当日になって心配になったようだった。
本当に何もない、諒子がそう言っても彼女は引かなかった。
この分では次の試合も見に来ることになりそうである。
だいぶ試合が進んだ頃、少しざわめきが起こった。
「ディメンダー……!」
頭巾をかぶった黒い姿が3つ。
ルーピン教授はそれを見つけて杖を構えようとした。
「その必要はありません」
諒子がノートに目を向けたまま言った。
「あれは偽物です。放置しておいても問題はないでしょう」
「え、なになに!あれま、ディメンダーじゃない!ふーん、偽物なんだ……」
妙に冷静なルクレツィアは、諒子の発言を全面的に信用している。
「中身は人間です」
その方向を見もせずにノートに数式を書き連ねる諒子の発言に、ルーピン教授は不安と困惑を隠せなかった。
その時、飛行中のハリー・ポッターから銀色の何か大きなものが放たれた。
「パトローナス……ハリーもなかなか上達したものだ」
そしてその守護霊が飛んで行った先の諒子曰く偽ディメンダーはその場に倒れ込んだ。
そう、これは偽物なのだ。
もし本物なら吹き飛ばされている筈で。
それを見て、ルーピン教授が再び驚愕したのは言うまでもない。
試合が終わって、ルーピン教授はハリーに彼のパトローナスを誉める言葉をかけた。
僕、平気でした、と言うハリーに種明かしをしたとき、ディメンダーの中身――スリザリンのマルフォイたちはマクゴナガル教授のお叱りを受けていた。
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