斯様な雷鳴とどろく雨の中よくやることだ、と諒子は思った。

何がかと言えば「クィディッチ」である。

職員席にて黒い番傘を広げ試合観戦をしているわけだが、実は諒子にとってクィディッチ観戦は今回が初めてとなる。




ホグワーツの教師としてここにいるわけだから、とここで教えるようなものは一通り勉強済みだが、どうも箒だけはいただけなかった。いや、他にもいただけないこと――例えば、魔法薬の調合に物理的にも化学的にも安定でないスズ製の鍋を使うこと等――はあるが、とりわけ、ということである。

移動手段など姿現し、姿くらましを使えばどうにもなると思うのだ。
場所によってはホグワーツのようにその手の術が使えなくしてあるところもあるのだが、呪いのエキスパートであり、術を解くのも得意な諒子にとってそれはなんの障害にもならない。

徹底して昔ながらの文化を受け継ぐ魔法族に改めて嫌気がさすことの一つがこの、『箒で空を飛ぶ』と言うことだった。



「その傘は便利じゃのう」

隣に座った校長が言った。
何故“便利”なのかと言うと、この番傘は特殊なもので、この下に入っていれば雨にぬれることもないし風に吹かれることもない。
この番傘の下が結界内だからである。

この嵐では、普通の傘は吹き飛ばされ放題だったのに対し、諒子はまるで切り取られた空間にいるかのように平然とそこにいた。


だからなんですか、と思いつつも諒子は口に出さず、彼をこの傘に入れる、ということもしなかった。


なぜなら、校長はまたもや諒子に依頼と言う名のお願いをしてきたからだ。
この前の依頼を受けた時に『“怜宮の当主”に取引として正式なる依頼をすれば言うことを聞いてもらえる』と味を占めたらしい。

何かなければ、些か大仰ではあるかもしれないが、諒子はクィディッチを見ずに天寿を全うしていたかもしれない。



また、例の彼女の予言があったそうなのだ。
試合会場にディメンダーが現れ、ハリーが危険な状況に陥る、と。

考え直してみると、彼女のせいでいろいろ面倒なことに駆り出される機会が多くなった諒子。

諒子にとって、大いに不本意である。
なんせここホグワーツにいる理由は、魔法界を救うハリー・ポッター少年を導くことであり、エレンフェリスの監視および対処ではない。


クィディッチ初観戦でルールもよく知らない上にこの嵐では何かしらの労力を費やさないと何も見えないため、何が何だか諒子にはわからなかった。
所謂“千里眼”の能力は使おうと思えば使えるが、少々気力の消耗がある。


無気力な諒子がクィディッチ観戦如きに使うとは思えない。
大体、諒子なら人の位置は気配で読めるので殊更である。



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