「つまりは、日本では狼は神、或いはそれに仕えるモノとして人々の信仰を集めているのです」
ああ、梗子はやっぱりわかっていたんだ。
日本の頂点を、この若さで務めている優秀な梗子にはやはり、あの魔法薬がなんであるのか、見ただけでわかったんだ。
また、自分の存在について言い訳じみたことを言わなければならない。
もううんざりだった。
でも、今回は少し……いや、かなり様子が違った。
まさか、普段、無気力な彼女から、こんなに長いセリフが出るとは思わなかった。
文化圏が違うから、と言うこともあるかもしれないが、こんなふうに言われたのは初めてだ。
今までに何度か言われた、「人狼だけど気にしないよ」と言う言葉は、矛盾しているように思えた。
だって、“だけど”って付いているじゃないか。
それは人狼が悪いものだっていう前提がついているんだと思う。
でも、梗子は、そういう意識が無い。
自分の存在を認めてくれたのは……いや、梗子としては認める、と言う意識すらないのだろう。
きっと、彼女にとって、人狼である自分の存在は周りの普通の人間と何ら変わりはないのだろう。
初めてのことで、驚いてしまって、固まってしまって……。
何か言葉をかける前に、梗子は帰って行ってしまった。
「梗子……ありがとう……」
でも、本当に嬉しかった。
[*前] | [次] | [表紙]