「僕たち、錯乱してなんかいません!」
諒子は子供と大人が言い争っているさまを端の方で見つつ、どうして帰れないのだろう、と考えていた。
それは、諒子がディメンダーに対面しても何の影響も受けないことが一番の原因である。
この場にいる面々――数人の生徒と、数人の教師、それにイギリス魔法大臣――では、全く影響を受けないとなると諒子しかいないのである。
と言っても、ある程度の修行を積んだ陰陽師ならばディメンダーごときで影響を受けることなどないのだが。
とにかく、諒子はディメンダーと話をつける役割に駆り出されてしまったのだった。
そして、この後まもなく執行予定の刑に立ち会わけければならない。
もっとも、校長が好き勝手動くそうだからその刑が執行されるか否かは定かではない。
現状では、子供たちが『シリウス・ブラックは無実で、本当の殺人犯はピーター・ペティグリューだった』と主張するも、荒唐無稽な話だと相手にされていない。
「大臣、先生!二人とも出て行ってください。ポッターは私の患者です。患者を興奮させてはなりません!」
「僕、興奮なんてしていません。何があったのか二人に伝えようとしているんです。僕の言うことさえ聞いてくれたら――」
真実を必死で訴える子供に、闖入者を患者から遠ざけようとする医務室の主、そして頭ごなしに状況から判断するに適当と思われると言う名目の都合のいい答えに押し込めようとする大人……。
子供だからと言って、それほどに感情的になっていてはプレゼンテーション能力に欠けるものだと、分からないのだろうか。
そして、魔法大臣も魔法大臣だ。
面倒事にしたくないのは分かる。
しかし、まだ13歳の諒子にまで対抗心を燃やすほどにその地位に固執しているのなら一つ一つの案件を確実に処理していくべきである。
真実を無視して何でも都合のいいように解釈していけばやがてそれは足元を崩す大きな“ひび”につながるというものだというのに。
口に出さず、表情にも出さず、諒子はそう思っていた。
傍から見ていた諒子にとって、とにかく一笑に付してしまいたいほどに不毛なことであった。
[前] | [次#] | [表紙]