step:03
食われる気分





「ランランって最近ご飯の時間になると、前にも増して妙に嬉しそうになるよね」

目の前で机に頬杖を突きながら自分の帽子を弄ぶ嶺二の言葉に今にでも卵焼きを食おうと開けてた口だが、唖然として思わず開けっ放しになってしまった。卵焼きは卵焼きで箸から落とし掛けそうになったが執念で挟み込み、なんとか落とさずに済んだ。

「そのお弁当って後輩ちゃんのお手製だよね?」
「てめぇ……それ以上ふざけた事言ってと、その口裂くぞ」
「キャーッ!ランランこんっわーい!……って言うからかいはさておき、そんなに美味しいんだったら少しでも後輩ちゃんに感想だけでもちゃんと言ってあげたらどう?」

にやりと口端を吊り上げる嶺二の顔は何か企んでいるとしか思えねぇ。一体こいつは何が目的だ?

「………おい。あいつになんかしたのか?いや、しただろ絶対」
「なーんにも?ぼくはこの前、れいちゃんのお悩み相談室を開いただけだよー?へぐっ!?」

やけにニヤつかせるうざい顔には無性に腹が立つしかなく、軽く一発、嶺二の胸に握り拳を見舞ってやった。

「げほっげほっ!ちょ、ランランひっどいよー!ぼく正直に答えたのにー!!」
「てめぇがいちいちイラつかせてくるからだろうが!軽い一発で済んでマシだと思え!」
「軽い一発って!?結構痛かったんだけど!?」

煩く嘆く嶺二の言葉には余り耳を貸したく無かった。つーか、相談室ってなんだ。七海に何か悩みがあったっつー事だろ。
しかも寄りにもよってなんで相談相手が嶺二なんだ……。

「あれれ?ランランもしかして嫉妬?ジェラシー?」
「…………。」

なんだろな。自覚をしてっからこそと思うが、こうやって実際に口に出されると、このお気楽間抜けの鬱陶しい顔を殴り飛ばしたい衝動に駆られる。

「わー!ランランいつもに増してお顔こんっわーい!」
「そうさせてんのも、てめぇの所為だろ。つか、さっさと本題入りやがれ!」
「えー!そんな後輩ちゃんの大事な相談内容とかプライベートな事ペロッと言っちゃうなんで出来ないよー!と、言いたい所だけどここは君達の為に敢えて言うと……」

コホンッと一拍、嶺二はワザとらしい咳払いを置いてから、口を開いた。

「『寿先輩はお肉以外で黒崎先輩の好きな食べ物をご存知ですか?』だってさ!」
「な、なんだそりゃ……」

決して似ても似つかない七海のモノマネをする嶺二に脱力したが、七海の悩み事の内容でそれ以上に力が抜けていく。

「にゃははー!ランランにしてみれば "どうでもいい" って事かもしれないけど、後輩ちゃんにしてみれば "深刻な悩み" なんだよ?」
「そ、そう…なのか……?」
「そうそう。男にしてみればたかがちっぽけな話だけど、後輩ちゃんのような女の子はそんなちっぽけな話も大切にしたいものなんだよ」

流石女兄弟を持っているだけあるからか、嶺二の言葉には妙な説得力があった。
だが、好きな人の為なら尚更ね、と最後にニヤつかせた笑みと共に添えられた言葉のお陰でまた殴りたい衝動に駆られてしまった。が、まだ訊きたい事はあるんだ。ここは抑えろ、おれ。

「で、おれはどうすりゃいい?」
「ランラン今の話ちゃんと聞いてた!?自分の好きな食べ物とか!」
「肉」
「それは知ってる!後輩ちゃんもお肉以外に、て言ってたじゃん!ほら、特に後輩ちゃんの料理で好きなやつとかさ!後輩ちゃんに伝えるんだよ!!」

嶺二は熱を込めてあれやこれやと手をばたつかせては目をひん剥きながら話すが、こっちもこっちでどうにもできねぇ。

「仕方ねぇだろ。あいつの作ったもんはなんでも旨…………っ!!」

なんとか言葉を喉の奥まで突っ込もうとしたが、それに気付くのは余りにも遅い話だった。
嶺二の表情は今日一日の中で最もウザったいものに仕上がっていた。このまま記憶を消去してやろうかと思い立ったが一歩手前で踏み止めた。
これ以上厄介事は増やしたくねぇからな。嶺二から視線を外して、さっきから箸に挟んでいた卵焼きを口に含んだ。
少し濃いめに利かされた出汁と卵の味が口の中に広がっていく。
おれの好きな味だ。
前のおれならそうであっても、頭を抱えてそうでないと否定していたのにな。

(今となってはすっかりあいつに食わされてる)

いや、食われちまっているな。
おれはまた箸を弁当に運んだ。




(あらヤダ!この人サラッと惚気ちゃってるー!)
(悪ぃかよ……)
(あ、あのランランが……開き直るなんて……明日は雨かな……?)
(どういう意味だ)



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形勢逆転で春ちゃんにどっぷりやられてしまってもいいんじゃないかなってお話。
2012/10/21
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