∴ バックナンバー 朝起きたら知らない人が寝ていた。 しかも男。 しかも変な服。 年は高校生位で、身長は私より15cmほど高い。 赤く、臍を出す形の民族衣装のようなものを身に纏った少年がすやすやと寝息をたてて爆睡中。 わけがわからなくて、少年を起こして事情を聞くことにした。 「起きて!」 両肩を持ち揺さぶる。 両眉が一度歪むと、めんどくさそうに瞼が持ち上がった。 掠れた声でぽそぽそと何かを呟いたと思えば突然「うわああああああああ」と声を上げて身体を起こした。 叫びたいのはこっちだ、と言いたかったけれど、体中にある傷痕をみたら何か訳ありに違いないとは思わずにいられない。 「貴方、誰?」 「え、私は、えーと…誰でしたっけ…。」 顎に手を当て考え込む少年。 病院に行った方がいいかもしれない。 「………り!!」 「り?」 「凌統という友人がいました!」 「しらんがな。」 別に友人について聞いてるわけではないのですが。 少年がちらちらと部屋を見渡す。 うーん、えーと、など声を漏らしながら考え込む姿を見ながら思った。 −まさか、しらばっくれてる?! と、なれば早く聞き出さなければ。 なぜここにいるのかを。 まさか、泥棒? 泥棒してるから体中傷だらけなの? 大泥棒だから変な服着てるの? 考えれば考えるほど大泥棒説が出来上がってきて、急に恐怖感に襲われる。 やばいやばいやばい。 呼吸が荒くなって汗がじとりと滲む。 確か昔お母さんに「股間を蹴れば一発」と聞いたことがある。 立ち上がったその時に一発キメてやろう。 で、警察に通報。 「あ、あの…、すみません…。その本、見せて下さい。」 少年が指を差したのは三国志。 父親が昔くれた本だ。 読んだことはないけれど。 分厚い本を渡せばゆっくりと表紙を開いた。 ぺらぺらとページをめくる度に目を開いて、終いには泣きだした。 大粒の涙を拭きながらもページをめくり続け、しゃくりをあげながら「すみません」と何度も謝っていた。 何がすみません、なんだろう。 というか、泣くほどいい話なんだろうか。 「私の名は、…陸遜。」 「え…?」 「…この三国志の時代に生きた、人間です。」 「…………は?」 「…すみません、わかりませんよね……。」 ベッドから降りて、窓枠に手をかけて一度空を見る。 振り返ると私に笑いかけて、 「この時代の私は貴女に会えましたか?」 と、意味深な台詞を言った。 途端に陸遜の身体を光が包み込み、消えていく。 わけのわからない日曜の朝がやっと終わるのか、と同時にちょっと寂しくも思う。 完全に光が消えた時、ベッドに置いてあった三国志を手にとった。 ページをめくれば目を引く名前があった。 −陸遜伯言 慌てて携帯を開く。 着信ありの表示を見てかけ直した。 何コール後かに出た声は少し呆れていて。 10時に待ち合わせしてたのにもう30分も遅れてる。 陸遜が来なければ余裕だったのに。 「今家出るから待っててね、伯言。」 *20121212 |