文 | ナノ



アスタリスク


 キラリと光る耳元の飾り。
その光が刺になって胸に突き刺さるのを私は確かに感じていた。
何百何千何万何億もの人間の中で、彼は私を見つけた。
それはとても嬉しいことだ。
けれど彼との恋は祝福されるものではなかった。
彼の名は夏侯覇。
母国晋を裏切り、父の敵仇である蜀に寝返ったと知名度は高い。
裏切りは許されないことだ。
けど、私は彼が好き。
それは変わりはしない。
彼への愛情がきゅうきゅうと胸を縛りつけて緩まなく、夢でも苦しんでいる。
私も国に命を捧げる一人の兵士。
夏侯覇を許してはいけない。
敵になったのだから、自分が愛したあの首を、討ち取らなければならない。
湖を見つめながらただただ彼のことを考えた。
「何を考えているの」
「王元姫殿…。」
「夏侯覇が居なくて寂しい?」
どこからか現れた王元姫に問い掛けられる。
寂しいなんて、勿論のこと。
苦しいし、もう息することに精一杯だ。
気を抜いたら私は死んでしまうかもしれない。
「…無理しなくていいの、私も寂しいから。」
「え…?」
「彼が何もなしにここを裏切ると思う?」
「それは…、ないですね。」
「彼は敵だけど、貴女が貴女の気持ちを消す必要はないでしょ?誰もそれを責めることはしない。だから、泣いてもいい。」
夏侯覇の為に泣いたと言えば何人が私を避難するだろうか。
泣く事でさえ裏切りになるのではないか。
沢山の想いが入り混じり、泣けずにいた。
けど、それを許してくれるという王元姫の言葉に涙が溢れる。
「沢山泣いたら、戻ってね。」

耳を飾る装飾品は夏侯覇にもらったもの。
星型の耳飾り。
誰かが私を裏切りものだと避難しても、この星だけは外さないだろう。


*20121117