長く白い髪とは正反対な大きく黒い翼。髪の間から覗く羽の白と黒のコントラストが、陽の光と混ざってこの上なく綺麗なお宝に見えた。らしい。
「ベン、あれとってくれ」
これ以上ない無邪気な太陽のような笑顔でそう言って空を飛ぶ人間らしきものを指さしたお頭に、色々と言いたい事はあったがとりあえず煙草を咥えて空に向けて銃を撃った。羽を撃ち抜いたそれは、やがてこの船に落ちてきた。
「おーい、○○知らねえか?」
昼過ぎ、暇になった食堂をキョロキョロしながら○○を探すも誰も見てないと言う…あれー?
「朝飯の時もいなかったぞ」
「部屋にいるんじゃねえのか?」
「この前の戦闘で怪我してただろ。休んでんじゃないか?」
「それなら邪魔すんなよ頭ー」
ドッと笑いが溢れたその場を苦笑いしながら後にし、忠告を無視して○○の部屋に向かう。怪我が痛えなら船医を呼ばなきゃいけないし、なにより俺は船長だからな!仲間の心配はして当然!寝てたら起こして酒でも飲もう!
そう思いながらついた○○の部屋の前でドアに手をかけたとき、中からくぐもった悲鳴のようなものが聞こえた。瞬間、ほぼ蹴り破るようにドアを開け剣に手をかけたまま中を見渡す。しかし怪しいものの姿はなく、○○が上半身裸でベッドの上にうずくまってるだけだった。
「大丈夫か○○、何かあったのか」
「シャンクス…?っう゛…」
傍に寄ると○○が眉間に皺を寄せ、背中をおさえて苦しそうな顔をしながら俺を見上げる。いつもの涼し気な表情はどこにいった、と普段なら冗談を言うところだがそんな場合じゃないらしい。
ただ事ではなさそうな雰囲気にベンを呼んだ方がいいかと踵を返すと、後ろで○○が軽くマントを引っ張った。
「大丈夫だ、なんでもない…」
汗を浮かべた苦しそうな顔のまま大丈夫だから出ていけと○○が言った。全く大丈夫そうじゃないから出ていかないけど。
それでも大丈夫だと繰り返す○○にどうしたもんかと悩んでいると、その手に見たことも無い鈍色の器具が握られている事に気付いた。それをひょいっと取り上げて眺めてみると棒の先端に先の尖った針みたいなのが束になって付いている…そうだ、船医が持ってた刺青を彫るための道具によく似てる。これは全体に何か細かい模様が彫られてるけど、きっとあれだ。
「返せ、それに触るな…!」
「なんだ○○、刺青いれてたのか?…あ、」
思い出した。そういえば前の戦闘で○○が怪我をしたの、あれ背中だったっけ。
ハッとして力なく抵抗する○○に構わず背中を見ると…ない!斬られた傷はあるのに羽がなくなってる!?
「○○!?羽どうした!?」
「だから今彫ってる…」
「なんで刺青が消えるんだよ!」
「穢れを受けたから」
「け、けがれ?」
「不浄を受けたものは消される、神が決めた事だ」
まるで当然かのようにキッパリ言われちまったがまるでわからない…斬られた背中はばっちり羽の刺青があった場所だし、刺青を斬られたらダメってことか?でもなんで消える?というか神とは…生憎俺には縁がないもんだが。
しかしなんとなく○○にとって大切な事なのはわかるのでその辺は触れずにおこう。信仰なんかの価値観は踏み込むな危険、これ常識。
「じゃああの悲鳴は針を刺した時のか?」
「あれは消える時のだ…与えられた時と与えられたものが消える時は強い痛みを伴う。だから出ていけ」
「は?」
またわけがわからない事を言われそのまま○○に押されて部屋から追い出された。そういえば持ってきてた酒瓶を抱えたままだが、さっきの言葉を考える。与えられたってあの刺青の羽の事か?刺青はどうも傷付くとダメっぽいし、どういう原理かキレイさっぱり消えちまってその時結構痛いみたいで…また彫るみたいだが与えられた時ってのはまた彫る時っぽいしそれも痛いってことだよな…あー…
「すまん○○!!あのベンに頼んで撃ち落としてもらった時、しばらく部屋に閉じこもって出てこなかったのそのせいか!?警戒してたんじゃなくて痛くて寝込んでたのか!?!?悪かった!!!」
「出ていけ!」
部屋に飛び込んで全力の土下座をかますと○○が珍しくでかい声を出して俺を怒鳴った。口に布を噛んでたところを見るとやっぱり刺青を彫るのも相当痛いみたいで、尚更撃ち落とした事に罪悪感を感じる。後悔はしてないけど。羽を撃ち抜くんじゃなくて物理で捕獲すればよかった。
あと○○は痛がってたり弱い所を人に見せたくないみたいで、その後刺青彫ってるとこ見せてもらおうと部屋に何時間も居座ったらわりと本気で殴られた。
「お、○○。もういいのか?」
「…あぁ、終わった」
でもそのお陰か○○とは前よりちょっと距離が縮まった気がする。口数が増えたというか、雰囲気が柔らかくなったとかなんかそんな感じ!
「いやー、にしてもアレだな!」
痛みに耐えてる顔がエロかった、って言ったら元の距離に戻ったけど。悪かったって。
End