オギャッた瞬間周りのものを浮かせたらしい我こそがエスパータイプだ。○○って言うんですけどね。とりあえずエスパータイプならできるであろう事が全般出来ます。
「○○ーーー!!ちょっと来てくれ!!!!」
部屋でモノローグ語ってたらでっかい声で呼び出されたのでちょっと行ってきます。声は甲板辺りから…レツゴー!
「呼んだ?」
「うおビックリした!急にテレポートしてくんな!」
甲板へ飛んだら俺を呼んだ張本人のヤソップに怒られた。急にテレポートするなってテレポーテーションはそんなじんわり徐々にするものじゃなぃですけど…理不尽…ふえぇ。
「それより○○、新しい銃の性能試してえからこれ浮かしてくれ」
切り替えの早いヤソップに渡されたビー玉を言われた通り宙に浮かす。でも浮かすだけじゃつまらないからシェイク。さらにシェイク。もっとシェイク。
船の上空を縦横無尽に高速で動き回る小さなビー玉とは傍から見たらかなり奇妙で怖いと思うがこの船じゃ俺がいる限りこれは日常茶飯事だと思っていただきたい。一月くらい前に半ば無理やりこの船に乗せられたわけだが、力を隠さなくていいのと俺よりもっとすごい化け物がこの世にはウヨウヨいるってわかって実は結構楽しかったりするんだ。
「いよっ」
ズドン、と音がしてふっと力が抜けるのを感じる。動かしていたビー玉が粉々になった手応えだ、さすがヤソップ。
「んー、まあまあだな」
「どこが」
やっぱりこいつらは俺より化け物だ。
「おーい○○、起きてるか?」
夜、部屋で寝ていたら控えめにドアをノックする音とシャンクスの声が聞こえた。寝ぼけ眼で返事をするとドアの開く音が聞こえ、頑張って体を起こすとすぐ目の前にシャンクスがいて少しビックリ。
「なんか用…うわ2時じゃん。こんな時間にどうしたんだよ」
「いや、起きてるかなーって」
「普通は寝てるだろなんで起きてるって…なんで剣持ってるんだよ」
剣だけじゃない、よく見ると目の前のシャンクスは寝巻きじゃなくいつもと同じ格好をしていた。寝る前、寝巻き姿を見たのに。
それにいつもは俺の部屋に入る時はノックなんかせず飛び込んでくる。こんな大人しくせずもっと騒いでいる。夜中だから気を使ってるのかもしれないけどこんな静かに笑ってる奴じゃ…
「○○」
呼ばれた声にハッとして顔を上げると、天井は空、床は海になっていた。絶句してベッドの縁にしがみついていると空中から後ろに倒れるように落ちたシャンクスに、咄嗟になぜだか落ちない俺が伸ばした手はシャンクスの伸ばした左手の指先を掠めただけで届かなかった。ベッドの縁を握りしめて下の海に落ちるシャンクスを見て、俺の口から絶叫が漏れた。
「…よ、ちむ」
海に落ちたように汗びっしょりで目覚めた俺の直感がそう告げた。あれは正夢か逆夢か予知夢か、その答えはたぶん予知夢。ファイナルアンサー。
慌てて濡れたまま着替えもせず部屋を飛び出しシャンクスの部屋へと向かう途中、船が大きく揺れた。
「いでっ!」
情けなく転んでさらに情けない悲鳴が上がる。それよりも甲板の方が騒がしいからこの悲鳴は誰にも聞こえてないと思うけど。
明るくなった窓から外を見ると進路方向に複数の船が見えた。そこに刻まれたマリンの文字にこれが海軍の襲撃で、たぶんその最中に夢で見た出来事が起こるのだろうと直感で理解する。なら尚更シャンクスの元に行かないと。あいつの危機を知ってるのは俺しかいない、俺が助ける。
もつれた足で駆け出して甲板に飛び出すと、そこは俺がこの船に乗って初めての戦場の光景だった。
「あ!?おい○○、下がってろ!」
俺を見つけたルウがそう叫ぶのを聞きながらシャンクスの姿を探す。乗り込んでくる海兵と仲間の入り混じる中で、流れ弾を止めながらようやくその目立つ赤い髪を見つけたとたんまた走り出した。みんなが俺を止めるけど今は聞かない。それに俺だって戦えないぐらい弱いわけじゃない男の子だもん。
「○○、なんで来た!」
「うるせえ!!」
船の先頭で戦うシャンクスのそばに行って、戦ってる相手を初めて見て…え、なんかすごく強そう。こわ…えぇ、怖いんだけど。え、なにこいつ超デカイじゃん顔こっわ…正直泣きそう。勢いでここまで来ちゃったけど具体的なこと何も考えてなかったしこいつに勝てる気もしない…どうしよ。
「なんじゃ貴様は…」
「おわぁよく見たらマグマ!!えちょっと待って!!」
とりあえず向けられたマグマにこっち来ないで!とサイコな力でマグマを止める。あれえ全身マグマに!?なら全身止めてやる!!
「おどれ…能力者か」
「天然ですけど!海ポチャされたくなかったらお帰れ!!」
ぐぎぎと強面男を宙に持ち上げると周りからタイショー!と声が上がった。え、大将?マリンの大将…え!?!?
思わずシャンクスの方を振り返るとつられて持ち上げた強面男も一緒に動かしちゃってマグマの塊をシャンクスの方へ…。あつ!って言ってシャンクスが後ろに飛んで避けた先には船の縁があって、完全に想定外のそこにぶつかったシャンクスが大きくバランスを崩した。
グラリと傾く姿が夢と一致して咄嗟に船の縁にしがみついて手を伸ばす。伸ばした手はシャンクスの伸ばした指先に触れ、しかしそのまますり抜けて…
「シャンクス!」
俺は船の縁から手を離して海に体を投げ出した。
一説によれば、テレポーテーション出来るのは肉体だけで服や装飾品は置き去りらしい。
「いてて、○○大丈…うお!鼻血出てんぞ!」
「まてシャンクスマジで俺がいいって言うまで目を瞑ってくれ。今すぐ」
能力を使いすぎてオーバーヒートしたせいで出た鼻血を拭いもせずキリッと真顔でそれだけ言う。ぽたぽた鼻血垂らしてるせいでめちゃくちゃシュールだろうけどそこはほっといてくれ。あと床ドン状態のせいでシャンクスの胸に垂れた鼻血はあとで拭くからとにかく今は目を瞑れ。
「は?何言ってんだそれよ…おわぁ!?お前裸じゃねーか!!」
「だから目を瞑れって言ったんだ焦ったせいで服までテレポートできなかったんだよ!!つかお前も全裸だからな!!」
「はあぁ!?しかもベッドの上!?」
「俺の部屋にテレポートしたんだよまさかベッドの上に出るとは思わなかったけど!」
「ここからお頭と○○の声がするぞ!お頭無事か!!」
バーンと力強く開け放たれたドアと固まる俺たち(全裸でベッドに床ドン)と固まる仲間たち…たっぷり時間をおいてからそっとドアが閉められた。神よ、俺が何をした。この後むちゃくちゃ誤解解いた。
ちなみに俺があの時持ち上げてた強面大将は大将赤犬で俺がシャンクス助けるためにテレポーテーションしたせいで念力が解けて海に落ちたらしい。という話を後日ベックマンに手配書と一緒に聞かされた。神よ、俺が何をした。あとシャンクス俺を見るたびちょっと照れんな。
End