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  歌姫と


「あなたってクレイジーね」

クラリスは机の上で鈴を転がすように笑った。

「仕方ないだろ、ぼくはルーニーのキャラクターなんだからさ。お嬢さん」

しかしバッグスはそんな挑発にも似た笑いに動ずることなく、余裕たっぷりの笑みを返す。
するとクラリスは呆れたようにカゴの中に積まれたりんごの上に腰かけて足を組み替えた。更には可愛らしい顔立ちを少し怒ったようにして、注目と言わんばかりに人差し指を立てる。

「バッグス、いい加減に認めたらどうなの?恋焦がれて死にそうだって」
「にー、僕が君にかい?」
「ばかね」

だがそれでもふざけるバッグスに対し、ディズニートゥーンではなかなかいないタイプだと再認識してクラリスはため息をついた。

「ねえ、レディの気持ちって考えたことある?」
「あるわよ、うふふっ」

そしてクラリスが最後に投げかけた質問にも彼は女装をして返すというふざけっぷり。挙句にわざわざどことなく歌姫を彷彿とさせる恰好に化けるところにも彼女は眩暈がした。

「わたしはエルマーみたいには行かないわよ。いいこと?私の言葉を聞かないと痛い目をみるのは貴方なんだから」
「余計なお世話だねェー、ぼくと彼女はこの上なく上手くいってる。火遊びしかしたことないお嬢さんには理解できない話だよ」
「あら、まあ。それでも聞くだけ聞くのがジェントルマンの務めじゃなくて?」

でも、言いたいことを言ってやるのが友人のためだと、クラリスは耐えた。そして挑発的な流し目をお互い送り合ったあとに、バッグスの方が折れてクラリスに優雅に一例した。

「続きをどうぞ、お嬢さん」



クラリスの話を聞き終えたバッグスは、煙草代わりの人参をはみながら感想を述べた。

「よーくわかった。君はぼくがあの子を大事にしてないって言いたいんだろ」
「ええ」
「クラリス、なら悪いけど君はぼくらの関係をちっとも理解してない」

更にはひらひらと手袋を振って彼は小さなリスの女を一瞥する。

「レディのこといじめてるみたいに見えるかもしれないけどそうじゃないんだよ。少し厳しいかもしれないけど、あれが彼女のためなんだ。ぼくが彼女に心底惚れているのは事実さ、とっくに認めている。だからこそだ」
「・・・・・・ほかのやり方はないのね」
「あったらぼくだってとっくにやってる。ありがとう、クラリス。でもこの方法で彼女も満足してるんだ」

そして紳士的な手つきでクラリスを自らの肩へ案内するとキッチンにあるスピーディーの巣穴を訪ねた。

「スピーディー、いるんだろう。こちらのお嬢さんをミッキーアベニューまでエスコートしてさしあげるんだ」
「イーハー!喜んーデお受けするーヨ」
「まあ」
「じゃあね、クラリス。わざわざレディのためにありがとうね」

友だちなのだから当然とばかりにクラリスはゆっくりと首を振る。
それから小さいもの同士、スピーディーとクラリスは寄り添って彼の愛車の元へ向かう。
その姿を見送ったバッグスはふと視線をずらして、壁に貼られた彼と最愛の彼女のツーショットを見た。

「早く帰っておいで、ダーリン。今すぐ君に会いたいよ」



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