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  名優の朝


「バッグス、おはよう」

声をかけながら部屋をノックする。
確かに中にいるはずなのに、中からは返事はおろか物音すら聞こえない。

「ねえ入るよ」

静かに、それでいてはっきりと入室する意志を伝え扉を開ける。そうしないと勝手に入るなと咎められるかもしれないからだ。
機嫌の悪いバッグスになら、何を言われるかわからない。
部屋に入ると部屋は真っ暗だった。
厚いカーテンを開け、温かい朝の陽ざしを取り込む。
するとベッドの上で、毛布に包まれた大きなものがもぞっと動いた。

「起きて、遅刻しちゃうわ」
「にー」

なんとなく返事のようなものはあるがまだ起きてはいないようで、寝返りをうったバッグスは、陽ざしのまぶしさに顔をしかめた。
大きなベッドに片膝を乗せ、顔を覗き込むようにして声をかける。

「朝よ、キャロットケーキ焼けてるわ」

そしてその寝顔を見て、小さな声で囁いた。

「ああハニバニー、可愛らしい寝顔」

美しい毛並みに、子供のような愛くるしい表情。
額に触れたくて指先を伸ばした時、バッグスは目がぱっちりと開いて飛び起きた。

「可愛いのは寝顔だけかしら」

突然の目覚めに驚く。
起床早々得意の女装を披露した彼。
着崩したパジャマと乱れた髪から溢れる色気にくらりとした。
同時に身の危険を感じ、離れようとしたが腕をがっちり捕まれて動けない。

「そんなことないわ、ダーリン。目は覚めた?」
「僕の早着替えみたろ?」
「そうね、相変わらず見事だったわ」

そして女装をといておはよ、とようやく朝の挨拶を返してくれた彼は優しいキスを施してくれた。

「にー、どったの?センセ」
「なにが」

するとバッグスはおはようのキスはしてくれないのかい?と不思議そうに返してきた。
はいはい、ベッドの縁に腰掛けるバッグスの横に座りさっきの彼と同じようにそっと唇を落とした。
しかし触れるだけのキスで済ませるつもりが、バッグスが首に手を回して顔を引き寄せ、深く深く口付けられる。

「あっ、こら・・・・・・」

吐息が漏れる。

「舌だせよ」
「やめて」

しかしそう拒むとバッグスが子供のように頬をむくれさせる。
引き倒され、バッグスが私の上に馬乗りになれば、ぎぃとベッドがきしんだ。

「ねえ、本当に遅刻するわよ」
「スターは遅れて登場するものさ」

そしてそう言ってのけると深く口付けて舌を絡ませた。
朝から発情するなんて、さすがうさぎ。万年発情期。
そんな私を薄目で見て、バッグスは満足そうな笑みを浮かべた。

「どこまでやる?」

彼の手は服を脱がし始めていた。

「ここまでよ、これ以上したら当分ベティの家で暮らすわ」

途端に彼はわかったよ、と不服そうに言って脱がすのをやめつつも露わになった首筋に口付けられ、言葉を詰まらせる。

「ちょっと!」
「さっき以上のことはしてないだろ。このくらい許してくれよ、最近忙しくて君に構えなかったからさ」

そしてバッグスは恭しく手を取って手の平にキスをした。

「いいだろ、今夜も遅くなるんだ」

ああ、そんなふうに強請られたら断れないって知ってるくせに。
しょせん私も彼に似てお人好しなのだ。
曖昧に頷くと、バッグスは喜々として再び唇を重ねた。



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