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  ガールズトーク


「ミッキーったら、本当に優しくってね」

女の子が三人集まれば姦しいというけれど、四人集まればもう収拾がつかない。ミニーの部屋のベッドの上、わたしたちは丸くなって座りあっちからこっちへ、話題は永遠に尽きそうもなかった。

「ねえ、ジェシカ!あなたはロジャーと・・・・・・」

そう、目の前に揃うはミニー・マウス、オルテンシア、ジェシカ・ラビット。ハリウッドの大女優たちだ。
彼女たちはみな愛しい恋人たちの話に花を咲かせていた。

「ああロジャー、本当にかわいらしいわ。昨日もキャロットケーキを・・・・・・ああそう言えば貴女たちの男もうさぎだったわね」

その中でふとジェシカはオルテンシアとわたしを見る。
するとオルテンシアはむくれて短く文句を言った。

「彼ったら、パークの方へ行きっぱなしよ!私をおいて!」
「ああオルテンシア!あなたもすぐ出れるわよ、オズワルドがよく上に掛け合っているしミッキーも同じショーに出たがっていたわ」
「ありがとうミニー!でもね、わたしそれよりも今日はバッグスのお話を聞きたいの!ねえいいでしょ、レディ」

そしてオルテンシアはとうとう私に話題を振った。ええっと言葉に詰まって眉を八の字にする。
それから頭の中にあのうさぎの姿を思い浮かべた。バッグス・バニー。ワーナーはルーニートゥーンズに籍を置く大スター。他の俳優とは少し変わっている、狡猾なうさぎ。

「とくになにもないよ、オルテンシア。それより、もっとオズワルドの・・・・・・」
「ねえ、レディ・ドゥ!恥ずかしがらないで!」
「ミニー!」
「わたしにも聞かせて」
「ジェシカまで・・・・・・」
「他のうさぎの話が聞きたくてあなたに話を振ったのよ。あのうさぎは、ベッドの上ではどうなの」

挙句の果てには、ジェシカが平気でトゥーンにとって禁忌の質問を投げてきた。どうしようかと困り果てて他のふたりに助けを求めると、ミニーとオルテンシアもきらきらにこにこと期待を込めてこちらを見つめてきていた。
もう、やだ。そして答えに詰まった果てに、わたしは逃げた

「・・・・・・ロジャーといっしょ」
「最高なのね!」

すると凄まじい解釈をされてしまったようだ。ミニーは満面の笑みでオルテンシアにじゃれつきながら頬を赤らめて笑った。 オルテンシアもすごい笑顔でそれを受け止めている。恥ずかしすぎて爆発しそうだった。
わたしはシーツに両手をつきながら上擦った声で流れをせかそうとする。

「つぎ、次の話!ミニーよ!」
「ええ!質問するわ!」
「ちょっとぉ!」

それなのに悪ノリしたミニーは世界の恋人の恋人に相応しい華やかな微笑みで私を見る。同時にミッキーってベッドの上だと不器用そうだなとちょっと失礼なことも考えた。待って、わたしも毒され始めてる?

「彼、ミッキーとよく遊んでいるみたいだけどとっても意地悪みたいよねえ、どうなの?二人きりになるとどうなの?甘やかしてくれるの?それともやっぱり?きゃあああ!」

しかも彼女も発言しながら一足先に大興奮している。まったくもう、二人きりのときのバッグス?そんなに興奮するような話でもないのに。
でもふたりきりの時の彼を思い出すと無意識のうちに頬が赤くなった。だって彼、やっぱり意地が悪いけど、それはエルマーたちに仕掛けるような単に崖から突き落とすだけのようなものとは違って、まるで蜜の中へ溺れさせるような甘やかなものなんだもの。色気を纏ってじわりじわりと攻めてくる。

「意地悪かもしれないけど・・・・・・、嫌じゃないやつ」

どったの、センセー?としたり顔で言う時が彼が勝利を勝ち取った合図だ。こちらが強請るまで、なにもしてくれない。苦し紛れに呟きながら思った。
するとさらにきゃあきゃあ騒ぐミニーとオルテンシア、変に楽しそうなジェシカ。

「詳しく聞かせてよ!バッグスのこと、ぜんぜん想像つかない!」

こちらからしたらオズワルドが二人きりの時どんな顔するのか全く想像つかないよ。彼の映画内でのキスの雨ふらせるキス魔が本性なのか、否か。
ミッキーだって、完璧なスターとしてミニーの前で振る舞えるのかそれとも違うのか。
ロジャーに関しては、彼の色気を孕んだ顔が全く想像出来ない。

「にー、そうだねぇ。彼女はぼくがどったのってきくとすぐにとろけて甘い声で“バッグスぅ”って甘い声で強請ってくるんだから、躾の一つや二つしたくもなるよねえ」
「!?」

だがその時、唐突に聞こえたわざとらしい女声に慌てた。見知らぬ声、この場に誰が紛れ込んできたというのか。わたし達は一斉に発生源をみた。
まあるくなって座っているなか、いつの間にか紛れ込んだ女装したうさぎ。ああダーリン、なんてこと言っているの。ジェシカが呆れたように呟いた。

「相変わらずね、女装うさぎ」
「にー、ジェシカ。ロジャーは元気かい?この前クレジットカードを握り締めて泣いていたよ」
「あなたの同居人の鴨よりは節度を守っているわ」

そんな並んで座るふたりを見て、バッグスの色気はジェシカに引けを取らないなと思った私は危ないのかもしれない。
そして彼は、よよよと相変わらずわざとらしいひどい演技で泣き声をあげ始めた。ついでにとんでもないことを言い出す。

「それにしてもひどいわぁ、女子会に私を呼んでくれないなんてぇ。なあに、ミッキーアベニューの女子会だったのかな?だったらわたしの玩具・・はいらないでしょ?返してぇ」
「バッグス!」

わたしは慌てて彼の口を手で塞ぐために飛びかかった。本当はデイジーにベティ、ウィニーも来るはずだったのに仕事で来られなくなっただけなのだ。
それからミニーの、彼の数少ない親友の彼女の寝室に不法侵入したうさぎを引き摺りベッドから降ろした。

「本当にごめんね、ミニー。もう帰るかららほら行きましょ」
「うふふ、いいのよ、また来てね!バッグスも!今度はゆっくりお茶しましょ」
「よろこんで!うふふ」

うふふじゃないでしょ、ミッキーはなにも言わないのかな。オルテンシアまでしたり顔で手を振っていた。



「バッグス」
「どったのセンセー?」

バッグスの赤い車に乗り込んで、ルーニーウッドへの帰り道。ふてくされたわたしは頬杖をついて窓の外を見つめながら文句を言った。

「オルテンシアはミッキーアベニューの住人じゃないよ、ウェイストランドの人だよ」
「知ってる、あのしあわせうさぎたちハートを持っているくせにトゥーンタウンに住もうとしないんだ。有名だよ」

そしてハンドルを握りながら煙草がわりなのか手持ち無沙汰に人参を食べすすめる彼にため息をついた。
すると彼はまた何処からか取り出したウィッグを被って一瞬で艶やかなメイクをする。

「ため息なんて!だってわたしのこと置いて女子会するなんてずるいじゃない!」
「男でしょ」
「・・・・・・のってくれないね」

しかし冷たく接すればあっという間に元に戻っている。ころころ容姿を変えるバッグスは本当に器用だ。
これが彼の芸風。女装して、キスして。何やってるんだか。

「たまの休み邪魔しないでください」
「こっちの台詞だよ。たまの休みにいないなんて、どういうこと?」
「よく言うわ。普段あんなにセクシー女優侍らせて。遊んでくれる人はいっぱいいるでしょう」
「あんなの飾りだよ。ぼくだってハリウッドスター演じているんだ」
「ミッキーはしてない!」
「ミッキーとはキャラが違うんだ。わかるだろ」

ねぇミッキー、と彼は長い耳を丸めリボンと水玉ワンピースを身につけミニーの声音を真似てみせた。

「・・・・・・」
「にー、ぼくはダフィーたちと差をつけるためさ。うちではしてない」
「リムジンで家まで送り迎えしてもらっているじゃないの」
「知らないの?ロジャーもだよ、主人公としてのステータスさ」

そしてバッグスは黙りこくって私を見た。なにかに感づきましたって顔。やになっちゃう。唇をとがらせた。

「にぃー、もしかして嫉妬してた?それは気づかなかった」
「・・・・・・当然の話、これは戦争よ」
「よく言うよ、ぼくに勝てないくせに」

最後に彼の口癖を苦し紛れに吐けば、バッグスはふと優しく笑った。

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