おはよう
起きて、起きてと声がする。それにつられるようにうっすらと目を開ければ、光の中に長い耳のシルエット。ああ、いとしいあのひとだ。
ふわりと自然に笑いが込み上げてきて、同時に頬に触れてきたシルクの手袋に擦り寄った。するといたずらっぽい親指が輪郭をなぞってくる。素直に受け入れて黒のインクの瞳を見つめた。
「どったの、センセー?もう起きなくちゃ」
そうすると、ほら。彼は満足そうにからかうような声でいつもの口癖を紡ぐ。分かってるよ、と微かに頷いて柔らかな布団から半身を起こした。
彼、そう天下の大スター、バッグス・バニーは、額に優しいキスをくれて起きるのを手伝ってくれる。ありがとうと微笑むと伏し目で笑って応えてくれた。
「きみって本当に手がかかる」
そんな憎まれ口を添えられてしまったけれど。困ってしまって、ごまかし笑いを浮かべながらその顔を覗き込んだ。狂気の滲んだ、絶対王者の顔にどきどきと心拍数が跳ねる。
そして彼は、たったそれだけの動作でこちらの言いたかったことを全て分かってしまったようだった。にぃー、とたっぷり間を取ってからバッグスは言う。
「ううん、いいんだ。それがかわいくてかわいくて堪らないんだよ。ぼくのレディ」
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