頬に優しいキスをして

彼女の甘い匂いのする髪の毛をそっと撫でた。指と指の間をすり抜けていく艶やかな髪の毛。アサヒ、と囁くように名前を呼ぶと眠たげな返事。
細い身体には疲労とアルコールが心地よく支配しているのだろう。男の胸に体を預けいまにも眠りそうにしていた。
甘い支配欲が胸を満たしてふうとタカシが心地のよいため息をつけば彼女もふふふとしあわせそうに笑う。

「なんだ」
「べつに?」

そしていたずらっぽくアサヒが笑ってぐりぐりと胸の中に顔を埋める。
想像していたよりずっと、温かな声と体温や手つきが恐ろしい程に心地よかった。絶対に離れない、離さないそんなドロドロとした感情を胸に秘めているのはタカシだけじゃなくアサヒの方もだ。
何年もかけてようやく互いに互いじゃないと幸せになれないと知ったふたりがもう離れないとばかりに抱きしめ合う。
そしてそうなればもっといろんな所に触れたくなるのが男の性だ。
警戒させないようにそっと手を滑らせて背筋の滑らかなラインをなぞった。しかしその優しい手付きの中にある明確な欲望を敏感に感じとったアサヒが擽ったそうに笑いながら情欲の宿る瞳でタカシを見つめる。
その獣のような瞳がもっと見たくて彼は顎をすくいあげるように取って顔を近づけた。

「ちょろいやつ、心配になる」
「・・・タカシだから」
「そうか、仕方ないな。騙されてやるよ」

本当なのに。でも言葉にしてもきっと伝わらない。それでも、これから長い時間をかけて態度で伝えればいいとアサヒは思った。そっと瞼を閉じれば触れるだけの優しい口付け。

「ん、もっと」
「はいはい、ベッドに行くから掴まれ」
「やだあ、お姫様抱っこでベッド?キザすぎ」
「酷くしてやろうか、おれが優しいうちにいうこと聞いておけよ」

そういうと彼女はうそうそ、嬉しいと笑って首に手を回してしがみつく。そしてタカシがそれでいいんだとばかりに頬にまた唇を落としてアサヒを抱き上げ立ち上がった。



しつこいほどの前戯を経て溶けきったそこに大きな質量がねじ込まれる。それと同時に吐き出された好きな男の熱い息に興奮して彼女の身体がぞくぞくと震えた。いつもクールな男の興奮しきった吐息と余裕なさげな顔つきがアサヒはたまらなく好きだった。
鍛えられた身体と、甘く精悍な顔立ちに心地よい低音。自分には随分と勿体ない男だとは思いつつもやっぱり自分には彼しかいないのだとその身体にしがみついた。
するとタカシは腰を振るのをやめて熱に浮かされた彼女の顔を見つめる。

「・・・今日はやたらと甘えただな」

突然途絶えた快楽がもどかしい。控えめに腰を振って続きを迫れば彼の手がアサヒの腰をがっしりと抑え込んでその僅かな快楽さえ禁じた。
まじまじと自分を見つめてくる切れ長の瞳に向かって泣き言を吐く。

「や、やだ、ナカ掻き回して・・・」
「わかったからそんな目で見るなよ。起き上がるから首捕まって」

アサヒの心の内を読もうとしていたタカシだったが、貪欲に快楽をねだる彼女に根負けして身体を支えながら起き上がりベッドの上に座ると対面座位まで持っていくと壁によりかかった。

「ほら、好きなだけ動いていいぞ」
「んー、ッ」

ゆらゆらと腰を揺らす。甘い喘ぎ声を直接タカシの耳に吹き込んだ。絶頂まではほど遠いが心地いい快楽が双方を支配した。

「っあ、あ、きもちい、タカシ、すき・・・ッ」
「おれも気持ちがいいよ。好きだ」

言われ慣れない好きという言葉に快楽が背筋を駆け抜けて絶頂を迎える。突然激しく収縮した身体に男は嗤って両手が背後に回って臀の丸みを掴んだ。

「ほんとにおまえ、そうやって」

ぐっと指に力を入れられるとがくがくと腰が震えてアサヒは快楽の果まで落とされる。気持ちよすぎてどうにかなりそうでだらしない声しか出てこない。

「男を騙すのが本当に上手いな・・・!」
「ちがう、のッ!た、タカシに、触られて、すきっていわれるの、ほんと、ッ、に!」

それ以上はあ、あ、なんて文章にならない喘ぎ声だけが喉から零れた。
うつ伏せにそんな彼女を押さえ込み、頭をベットに押し付け腰を高く上げさせるとがつがつと奥を突いた。

「っやぁぁ!ッも、あ!ん!タカシぃ・・・!」

タカシも荒い息を隠せなかった。凶暴な獣のようなセックス。決して綺麗ではない彼女の過去をタカシは知っていた。それでもアサヒが愛おしいのだ。
嘘か本当か分からない言葉を紡ぐ彼女を黙らせるために、喘ぎ声以外は許さないとばかりに無茶苦茶に犯した。

「あー、もう。今日はせっかく優しくしてやりたかったのに。全部アサヒのせい」
「っん、あ、ッあ!や、やッ!あ!」
「かわいそうに」

ばちんと振り上げた手を振り下ろす。そして身体中に容赦のない歯型を残した。本当はただどろどろに甘やかして真綿でくるんで可愛がりたいだけなのに。可哀想だとは思ったが全部アサヒのせいにした。
もう頭がぐるぐるして痛みと苦しさで意識が朦朧とした彼女の姿に興奮が隠せない。
理性を保ったアサヒもかわいくてたまらないが、獣の本性むき出しで頼る者がもう自分しかいなくなってしまったかわいそうなアサヒの姿こそ1番に愛おしかった。本当は、こんなアサヒを鎖でつないで家に閉じ込めておきたい。そう思えば自然と笑みが浮かんだ。

「愛してる、アサヒ」

朦朧とする意識の中後ろを返りみたアサヒは、タカシのそんな狂気じみた笑顔にぞわぞわとした快楽を感じながらそっと意識を手放した。


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