好奇心は女王をも殺す

とある日の事だ。崇がふらりと家を訪れたので、誠は心底驚いた。
ふたりは親友という間柄ではあったが、崇はそもそも用もなく他人の家に遊びに来るような男ではなかった。意味の無いことがあまり好きではないから当然だ。だからなんの用?の問いに特になにもとの答えが帰ってきたので、誠は驚きで思わず手に持っていたはたきを落としそうになったほどだ。
落としかけたそれをそっと定位置に戻し、店の奥の水道で軽く手を洗うと店先に並べていたパイナップル串を1本とって崇に渡す。

「・・・まあ、食えよ」
「いつも悪いな」

彼も変わったのだろうか。相原 旭という女とやっと恋仲になってからというもの、崇は随分と優しく笑うようになったし、人当たりもほんの少しまろやかになった気がする。自分の元へふらりと意味もなく遊びに来るようになるのもおかしくないのかもしれない。誠は無理にそう納得してみせた。

「それで、旭はどう?」
「どうってどういう意味だ」
「なにかあるだろ、恋人になったんだから。尚更かわいく見えるだとか、どこかデートに行ったとか。話す事が」

その言葉にパイナップル串を食べる手を止めて少しだけ崇は考え込む。
しかし恋人になったと言っても、いまも昔も常に隣にいるのは変わらないし、一緒に住んでいるのも変わらない、デートと言ってもふたりとも池袋駅より半径10キロから出ようなんて話題はほとんど出なかった。

「・・・いまも昔もかわいいし、最後にデートらしいことをしたのは3週間前に行ったメトロポリタンホテルのイタリアン」

そう言うと誠は随分と呆れた顔をして丸裸になったパイナップルの串をごみ箱に放り込んだ。

「つまんねえ男、顔だけじゃ飽きられるぞ」

かと言って、自分は彼女のために遠出したりだとかほとんどしたことがなかったが。そのことは黙っておいた。
崇は勝手に言っておけとばかりに鼻を鳴らして自分もゴミ箱に串を投げ捨てる。綺麗な放物線を描いてそれは消えた。
そして暇を持て余した誠が悪びれもなく下世話な部分に踏み込む。

「まさかもうセックスレスとは言わねえよな。ところで今日、あいつなにしてんの」

崇は少し呆れたが、隠すこともなく返事をした。


「家で大人しく待ってる。帰ったら抱き潰すから今夜は電話してくるなよ」

ただからかうつもりだったのに、返ってきた予想以上の言葉にへいへいと誠が辟易した顔で返事をする。猥談は嫌いじゃないが、このふたりの痴態なんて想像したくなかった。
不意をつかれた誠の顔をみて、ふっと満足気に笑って崇が立ち上がる。

「なんだよ、もう行くのか」
「旭が待ってるからな」
「あの旭だぞ、どうせ待ってないよ。落ち着きないし、昼から飲みに行ったり買い物行ったりしてんじゃねえの」

誠と旭の付き合いは短くない。彼女に対する行動予測はほぼ完璧だった。しかしふっと余裕の笑みを崇は浮かべてみせた。その笑みの威圧感に、誠の頬に冷や汗が伝う。

「待ってる。かわいいやつだよ、本当に」

ああ、そう。と乾いた返事しか出来なかった。なにを考えているか見透かせないまま、誠は崇の後ろ姿を見送った。



ただいまも言わずに玄関を開ける。靴を脱いでゆっくりと端に揃えて置いた。そして静かに廊下を進んでリビングに向かう。電気はつきっぱなし。やはり彼女は大人しく家で待っていた。崇は自然と上がる口角が抑えきれない。
ぐったりと床に転がる彼女の身体の横に座り込んだ。

「ただいま、旭」

汗ばむ髪を優しく撫でる。虚ろな目で旭が男を見上げた。返事はできない。口元には布を噛まされ、後ろ手に拘束されて足の間にはまだうねりをあげる機械が埋め込まれていた。

「いい子で待ってたな。水飲むか」

いい眺めだ、内心そう呟きながら身体を抱き起こす。するとナカに埋まるバイブの位置がズレたのか、旭が掠れた声をあげた。
しかしそれに気が付かないふりをして、猿轡を緩めて買ってきたペットボトルを口元に持っていってやる。旭には言いたいことがたくさんあったが、まずは水分補給が先だと、何も言わずに与えられるがまま水を飲んだ。
さっきはいまも昔もかわいいとは言ったが、誠の言う通り自分の腕の中で従順になっているいまの旭の方がかわいいかもしれない。そう認識を改めたりした。
そんなことを考えている崇だったが、旭はそれどころではなかった。もうずっとこんな拷問を受けているのだ。
こうなったきっかけは今朝、崇がとびきり極上の微笑みを浮かべて「おいで」と口にしたせいだった。その顔につられてふらりと腕の中に飛び込めば、崇はあれよという間に彼女を拘束してみせた。
そして前戯もそこそこに、このグロテスクな玩具を挿れて固定するとひと言出かけてくるとにっこりと笑って言ったのだ。どうしてこんな酷いことをされるのか、可哀想な旭にはさっぱり心当たりがなかった。

「っ、ん、や、どこいってたの、これ、ぬいて」
「誠のとこ」

途端に旭の顔が愕然と変わる。自分のこと放置して、そんなところまで遊びに行ってた。永遠に思えた時間は、やっぱり決して短い時間ではなかったようだ。
つい睨みつけると崇の顔が愉悦に歪む 。

「まだそんな元気あるか、旭。いいぞ、遊んでやる」
「っ!や、も、むりなの!んあ、あっあっ!だめぇ!」

それからバイブを手に持ったかと思えば、ぐちゃぐちゃと抜き差しを始めた。もう旭は文句も口に出来ずだらしなく喘ぐしか出来ない。
そんなだらしなくとろけた顔を見られるのが崇は心底嬉しかった。絶対に手放すものかと仄暗い独占欲に煽られる。

「気持ちいいな、旭」
「ちが、だめっ!しんじゃ!あ、ッあん、しんじゃ、うッ!」
「大丈夫だ、死なせない」

硬いものが奥に当たり、容赦ないピストンに我慢ができず潮が溢れる。そして床と崇の膝を濡らしたが彼は叱らずよく出来たとばかりに微笑んで頭を撫でた。
しかし羞恥とどうしようもない快楽で旭は泣き出すことしか出来なかった。全部崇のせいなのに、まるで他人事のように泣くなよなんて甘い声で慰められる。そしてぼろぼろと涙が溢れる瞳の傍にキスをされた。咥内に滲みた涙のしょっぱさに彼はようやく満足を覚えて、バイブの電源を切ってゆっくりと引き抜く。
ずっと埋め込まれていたモノがなくなる寂しさに旭が切ない声を漏らした。

「っ、うぇ、ッばか、ばかぁッ」
「旭」

そんな彼女に努めて優しく、名前を呼びながらゆるゆると背中を撫でる。旭にはまだ仕事が残っていた。後ろ手の拘束を解いて、そのままそっと抱き上げると寝室まで優しく声をかけながら運ぶ。旭の方は、優しげな崇の雰囲気にこれで拷問は終わりだと安心しきって酷い男ののシャツをぎゅっと握り、大人しく身体を預けた。
電気もつけずに、その身体をベッドの真ん中にやさしく横たえる。酷いセックスの締めめくりの、甘いキスを旭がねだった。微笑んで崇はねだられるままに触れるだけのキスを落とす。その時だった、ごちゅんと硬いものが再び身体の中に押し入ってきて旭の息が止まった。

「ッ、あ、ッなんで?おわりじゃない、の?」
「誰が終わりだなんて言った。まだバイブ突っ込まれてただけだろ、物足りないくせに」

ゆるゆると腰が振られる。なんて男だと思った、思いやりがない。しかしそんな不満は喘ぎ声になって消えた。
ゆっくりと打ち込まれていたかと思えば、だんだんと激しくなる。崇が倒れ込んできて抱え込むように頭と腰に手を回してきた。は、なんて珍しく余裕のない熱い吐息が耳を掠めて膣がきゅ、と締まって反応する。

「エロ、旭。いい加減にしろ」
「なにも!してないっ!ぁん、イッちゃう!ダメ・・・だめなのッ!やだぁ・・・っ」

腰を抱いていた手が滑らかな肌を滑って首筋まで来た。昔、彼は首絞め犯を捕まえて私刑したことがあったがあいつは運が悪かっただけだと内心同情もしていた。
そっと喉仏を手のひらで覆い隠して力を込める。首の血流を止められて旭の頭がぼうっと霞んだ。

「・・・っは」
「旭」

彼のとろけそうなほど甘い微笑みは旭だけのものだ。たくさんの女がその笑みに簡単に絆されてしまうし、旭だって例外じゃない。
とうとう抵抗をなくして緩みきった両足を持ち上げて奥まで抉る。

「・・・ひ、ああっ、うッ・・・あ」

もう息も絶え絶え。さすがの崇もそろそろ終わらせてやるべきかと熱い息を吐きながら思う。

「旭、どこに出されたい」

しかしそうは言っても答えはひとつしか許されていない。快楽と窒息と疲労とでぐちゃぐちゃになった旭が崇にしがみついて腰を揺らした。

「ナカ・・・欲しいの!崇の、ッちょうだいッ」

本当に、誠の言う通り素直で従順な旭はいままでよりずっと、心底かわいいと思った。子宮の上をそっと撫でる。
ここ出される、旭がそう意識すればまたきゅんと締まった。

「・・・っ、お望み通りに」

そのまま腰を掴み、絶頂のためにがつがつと腰を振る。もうおかしくなる寸前の旭が泣きながら崇の名前を呼んだ。そしてそれに応えるように、愛してるの一言と共に最奥へとどくどくと射精した。
どうせ妊娠しないになんて分かってるのに、彼女と交わればどうしても子宮に欲を吐き出したくなるのは男の性だ。ひ、ひ、と泣きじゃくる旭に今度こそ終わりを知らせる優しいキスをした。



「・・・も、もう、バイブやらない?」
「ああ、もうしないから。ゆっくり休め、それとも水飲むか?」

旭はその問いにふるふると首を振って崇の胸元に顔を埋めた。
添い寝しながらそれを受け入れ、そっと頭を撫でる。
事の始まりは、崇の些細な好奇心だった。玩具で遊びたくなった男がまた言葉巧みに旭を誘導しバイブを咥え込ませた。
しかしそんな酷いことをしても、旭はここまで追い込んだ男に結局はすがりついてくのだ。彼女から与えられたそんな満足感に崇は浸りながら目を閉じた。


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